「・・・・・・」
「にいちゃん、なにやってんだ?」
「内職だよ」

 授業中であるにもかかわらず、内職を行っているの手元を隣のスバルが覗き込んでいた。

 今は、島の青空学校にて授業中。
 彼らのすぐ近くで、先生であるアティがチョークを片手に話をしていた。
 木に引っ掛けた黒板には、数字と思われる文字が羅列している。
 今は、算数の時間。




「なんか、数字ばっかり並んでるけど?」
「そういうものなんだよ、これは」

 の手元を覗き込んで、へぇー、と感心したようなスバルの声。
 彼の作る未知なるものに興味深々のご様子だった。

「スバル、俺は一応数字の勉強のついでにこれ作ってるんだぞ?」

 アティの話、聞かないでいいのか?
 彼にそう尋ねたものの、時すでに遅し。

「スバルく〜ん?」
「うひゃあっ!?」

 目の前がかげり、見上げればメガネをかけたアティの姿。
 彼女は、笑みを見せているようで・・・笑っていなかった。

もですよ、ちゃんと聞いててください」
「ふふん、俺はしっかりと聞いていたさ」

 内職をしつつ。

 はアティに向けて先ほど彼女がしていた話を繰り返した。

「す、すごいですね・・・」
「だって、この内容自分の世界でやってるし・・・かなり前に」

 文字さえわかればいくらでも。
 彼はそう言って、内職を再開した。

 アティの話していた内容とは、いたって簡単。
 算数、というだけあって簡単な四則計算なのであった。





     
番外  雪が降る夜 〜White Christmas〜





「・・・できた」
「なにができたんだい?」

 授業はすでに終わっており、ヒマだったは残って作業を続けていた。
 彼の護衛獣であるユエルは、学校が終わったスバルたちと遊びに出かけている。
 彼女曰く、最近メイトルパの護人であるヤッファが昼寝をしているところをからかって遊ぶのが流行りなのだそうだ。
 もちろん、子どもたちの中でだが。

 彼にとってはいい迷惑だ。「なんとかしてくれよ」と先生たちにせがんでいる姿は記憶に新しい。



「おう、レックスか。これだよ」

 数字の勉強のついでに作ってみたんだ。
 がレックスに差し出したのは、12枚ある大人の顔くらいの大きさの紙。
 中には同じようなマス目と、その中に書いてある数字のみ。

「なんですか?これ」
「これはカレンダーっていうもので、俺の世界で日付を知るための道具なんだけど」

 自作だから、微妙だな。
 はそう言って苦笑いをした。

「いえ、よくできてると思いますが・・・なんで12枚なんですか?」
「俺のいた世界では、1年が12に分かれてるんだ。だから・・・」

 の説明に、アティとレックスは興味深そうにカレンダーを見つめていた。



「まぁ、別に知る必要はないんだけど。俺がこっちに喚ばれたのは、この日」

 そう言って、彼は大きく8と書いてある紙のマスの1つを指差す。
 その指を動かし、紙を数枚めくって、中のマスを指差した。

「で、今日がここだ」

 今までよく数えてましたね、とつぶやくアティにたぶんだけどな、と言って笑った。

「なんか、ここだけ色がちがうけど・・・」
「色違いは、仕事や学校が休みだとか行事や祝日を表してるんだ。ちなみに、今日は俺の世界では『クリスマス』だな」

 もうそんな時期なのか・・・

「「くりすます?」」

 聞きなれない言葉に、2人は首をかしげる。
 は苦笑してクリスマスの説明を始めた。





「懐かしいなぁ・・・」





 説明の途中での放ったこの一言に、2人は何かを思いついたように顔を見合わせた。







「ほえ〜・・・」
「・・・なんでこんなことに?」

 海賊船の目の前で島の住人たち、主に女性が右往左往している。
 広場の真ん中には、綺麗に並べられた大きめの机。
 その上にはすでにたくさんの料理が並んでいた。

「ソノラはん、追加できあがったんでもってってください!!」
「りょうか〜い!おおっ、エビだぁっ!!」
「オウキーニ。食材の追加、もって来たぜ!」
「おおきに、カイルはん。そこにおいといてください」

 ごうごうと火をおこして、汗をかきつつ料理をしているのはオウキーニ。
 それを手伝っているのが、島の女性たちだった。
 男性陣は、食材をとってきているようだ。

 とその隣でユエルがぽかんと口を開け閉めしているうちに、綺麗に並べられた机に料理がところ狭しと並べられていった。

、ユエル」
「「?」」

 声をかけてきたのはレックス。隣には、イスラとアズリア。
 2人は、苦笑しつつひらひらととユエルに手を振った。



「これ・・・なに?」
「ほら、さっきが言ってたじゃないか」

 夕暮れ時。
 から放たれた問いは、レックスは一言で答えを返した。
 彼らは、おそらくレックスとアティの呼びかけで盛大に宴会をするつもりなのだ。

「僕たち、強引に連れてこられたんだよ」
「この男がいきなり押しかけてきてな」
「俺は、誘いに行っただけじゃないか・・・」

 お前はもう少し人の話に耳を貸すべきだ。

 アズリアがそう言って彼の額を小突いた。





「あーあーあーあー」

 クリスマスパーティとかこつけて始まった宴会は、大きな鍋を中心に大盛り上がりを見せていた。
 まだ始まって間もないというのに、すでにできあがっている人がほとんど。
 は隅でその光景を見つめていた。

「ほ〜らぁ、も混ざりましょうよぉ」
「・・・スカーレル」
「おらっ、お前も飲めー!!」
「ぐもぉっ!?」

 カイルに首根っこを掴まれ、口へ強引に酒を流された。
 胃に大量の液体が流れてこんでいく。

 急に流し込まれたため、むせ返る。
 口の中の酒を吐き出してつつ咳き込んだ。

「げほ・・・無理やり飲ませるヤツがあるかぁっ!!」

 うがー!!といわんばかりの勢いで両腕を振り上げる。

「いいじゃねえか。今日は、無礼講だぜ?」
「そー!シマシマ野郎のいうと〜り!」

 シマシマしましま言うんじゃねえ!
 酒の入った器を片手に持ち、ヤッファがカイルを怒鳴る。
 しかし、その声にまったく動じず、彼は豪快に笑い声を上げた。


「なんだかよくわかませんが、殿の世界では今日は『くりすます』という日なのでしょう?」
『くりすますつりー、っていう木は用意できませんでしたけど』

 ファリエルの苦笑いに、はため息をひとつ。
 ゆっくりとまわりを見回すと、互いに笑いあう仲間たちの姿が見える。

 この場にいる全員はレックスとアティが集めたんだと、目の前にいるシルターンとサプレスの護人2人が話していた。
 当の2人を見れば、子どもたちと戯れて笑っている。
 の視線に気づき、手を振った。


 そんな2人に向け、は手を振り返した。



「・・・今日こそ勝ってやるからな!」
「うわあっ!?」

 そう言っての肩に手をまわすのは海賊カイル一家の船長、カイル。
 勝ってやる、というのは宴会のたびに行われる酒飲み大会のこと。
 カイルは宴会のたびに彼に勝負を挑んでは、ことごとく敗北しているのだ。

「君たちもうかなり飲んでるんだから、相手にならないと思うけど?」
「そういうつれないこと言うなって。いいから付き合えよ」

 半ば強引に引きずられていく。
 ずるずると音を立てつつ引きずられ、なみなみと酒の入った器を持たされた。
 それを眺めてキュウマとファリエルが微笑む。

「ほら、キュウマ。お前も来いよ・・・」
「じ、自分もですか・・・?」

 行くぞ!
 そう言ってヤッファがキュウマを引きずっていった。


「二日酔いになっても、知らないぞ?」

 挑発するように、はカイルに向けて笑みを浮かべる。
 ほのかに赤い顔で、彼は「まかせとけ!」といわんばかりに胸板を叩いた。





「それじゃ、行くわよ!」

 よ〜い、どん!

 スカーレルの掛け声とともに、を含めた数人が器を傾けた。
 瞬く間に器に入っていた酒は消えていく。

 一緒に参加したキュウマは、少し飲んだだけで顔を真っ赤にしてぐっすりと眠り込んでしまった。


「まったく、この程度で酔いつぶれてしまうとは・・・情けない」


 みなが勢いよく酒をあおりつづける中で、ミスミは酒を飲みつづける男たちを眺めつつちびちびと酒を口に入れた。





「だ、ダメだぁ・・・もう飲めねェ・・・」
「お、俺も・・・むりだぁ」

 バタン、キュー・・・

 顔を真っ赤にしたヤッファとカイルは、ついに酒に呑まれて眠ってしまった。

・・・アナタどんな胃袋してるのよぉ・・・?」
「別に、普通だと思うけど?」

 すでに目を回しかけているスカーレルに向けて、はそう言い放った。

 しんじられなぁい・・・

 弱々しくそう言い残し、ついにスカーレルも倒れこんでしまった。



「俺に勝とうなんざ、10年早いなぁ・・・はっはっは」

 は目の前で眠る彼らに向けて、お決まりになってしまったセリフを言い放った。
 ・・・棒読みで。




「・・・まったく」

 大量の酒を飲んだというのに、はしらふのまま光景を見つめていた。
 ほぼ全員、騒ぎ疲れてすでに夢の中へと旅立っている。


「どーすりゃいいんだか。この状況」


 はぁ・・・と肩を落としつつため息。
 料理は散乱、地面に寝そべって眠っている住人たちがたくさん。
 挙句の果てには机の上のものを押しのけて眠る者もいた。





 かけられた声に、振り向く。
 視界に飛び込んできたのは、ちびちび酒を飲んでいてほろ酔い状態のミスミと子どもたちと戯れていただけでまったく飲んでいないアティ。
 それに酔いつぶれた人たちの介抱にあたっていたフレイズと食事ができないファリエルの4人。

はお酒を飲まれなかったのですか?」
「いや、飲んだけど?」
「どれくらい飲んだんですか?」

 アティの質問に、は当然のごとく「かなり」と答えた。

「顔色も悪くないようではないか。本当に酒を飲んでいたのか?」
「ミスミさまも見てたじゃないですかぁ・・・まぁ、酒自体は元の世界で飲みまくってたし」

 本当は20歳以下は飲んじゃいけないんだけど。

 そう付け加え、さらに

 この島の酒は弱いから、酒っていうよりジュースみたいだし。

と続けた。

『それでもずいぶん飲んでいたような気がするんですけど・・・』
「まぁ、それは置いといて・・・どうする。これ?」

 がたずねる。
 目の前の光景を指差しつつ、4人を見た。

「わらわは眠い。ゆえにもう帰るぞ」

 ミスミさまはそう言うと、スバルを引きずりつつフラフラ帰っていった。

 あんなんでちゃんと帰れるんだろうか・・・

 そう思いつつ、を含む4人は、彼女を呆然と見つめていた。


「と、とりあえず・・・みんなを家へ帰しましょう」
「「『・・・了解』」」

 大変な作業になりそうだな。
 そう思いつつ近くの人を起こしにかかった。





「なんだか疲れた・・・」
「お疲れ様です」

 やっとこさみんなを家に送り返し、戻ってきたところで残り火を前にして座りこんだ。

 料理などの処理は明日にしよう、ということになりフレイズとファリエルは狭間の領域へ帰っていった。
 今この場にいるのはとアティのみ。

「人を起こすのがこんなに大変だったとは思いもしなかった。しかもぜんぜん起きてくれないし」
「まぁ、もともとは起こされる側ですし」

 火の淡い光が、2人を照らす。

「さて、もう遅いから・・・俺はもう寝るよ」
「ええ・・・私もそうします」

 よっこらせ、と掛け声をかけつつ立ち上がる。

「まだ若いんですから、そんなかけ声で立ち上がるのやめましょうよ・・・」
「問題ないって、それくらい」

 彼女の言葉に、が笑って答えた。

 火を消すために砂利をかけようと足を動かした。



「・・・あれ?」

 はらはらと舞い落ちる白い物体。
 手のひらを出すとその物体は手のひらに乗り、液体に変わった。



「雪・・・?」

 めずらしいですね、と言いつつアティがの隣で微笑む。
 彼女も同じく手のひらに雪を乗せていた。



 海面と舞い降りる雪に反射する月の光が、彼女を照らす。



「・・・・・・」
?」


 雪が舞う中で微笑むアティに見とれていたは、自分を呼ばれる声で我に返る。
 顔を覗き込むアティに向け、「なんでもないよ」と答えた。



「ホワイトクリスマス、か・・・」
「なんですか、それ?」
「クリスマスに雪が降ることだよ」

 そう彼女に説明して、消し損ねていた火を消した。

 月明かりに照らされて、雪が淡く光っているように見える。

「きれい・・・」

 この光景をもう少し見ていようと頭で結論づけ、元いた場所へ座る。
 彼女はとことことから少し離れて、月明かりを背に彼へと身体を向けた。

 からは、彼女の輪郭に沿って光が漏れているように見えている。



「そうは思いませんか?」



 笑顔を向ける彼女へ、笑みを浮かべた。




「そうだな」






えー・・・

キリバンということでクリスマスネタで
リクエストをいただいたのですが


クリスマスっぽくねーし・・・
ごめんなさい、ごめんなさい。
なんだかアティ贔屓になっちゃってるし・・・
ごめんなさい・・・でも、自分はアティさん大好きです!
なので結局このような形になってしまいました。

リクエストくださったなん魚様、どうか許してやってくださいませ。


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