「いままでに、ここまで面倒な仕事なんてあっただろうか……」

 とある管理外世界。
 とある島国。
 とある校舎のとある教室。

「いくらなんでも、無理ありすぎでしょ……」

 もはやため息しか出ない。
 これほどまでに人不足を極めてしまったか。

 白い制服をまとった青年は1人、周囲のきゃいきゃいと終わることのない喧騒を耳に入れ、うなだれる。
 しかし、彼がうなだれたところで仕事が片付くわけでもなく、「帰ってきていいよー」の一声もあるわけではなく、とにかく自分で何とかしなければならないのが現実で。

「全員揃ってますねー。それじゃあSHRを始めますよー」

 時は無常に、始まりの鐘を鳴らす。
 見渡す限り女、女、女、女。

 1人の日本人の、たった1つの発明をきっかけに、独自の道をたどった世界。
 男と女しかいないこの世界で、男が圧倒的に立場におかれたこの世界で、青年はひとつの仕事を仰せつかった。

 『願い』を叶える石。正しく叶えることのできない石。かつて、世界を揺るがす大事件に発展した、膨大なエネルギーを秘めた小さな石。
 遠い昔に滅び、流出した技術の結晶。
 厳重に保管してあったはずのそれらが、何者かによってこの世界へと送られた。犯人の影すら掴めないまま、『世界』への悪影響を恐れたお偉い方々が下した1つの命令を遂行するため、彼はこの世界に送られた。

 『インフィニット・ストラトス』という発明品によって、女尊男卑の世の中となったこの世界へと。

 なんという理不尽。ふざけんな某上司。

「織斑一夏です、よろしくおねがいします」
「……篠ノ之箒」
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを?」
「中国代表候補生、鳳鈴音。今日は宣戦布告に来たってワケ」

 世界に関する知識は皆無。目的の石の手がかりは一切ナシ。
 きっかけもつかめないまま、ただただ時だけが過ぎていく。

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました」
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 しかし。
 すこしずつ、少しずつ。
 いやだいやだと言いながらも面倒ごとに巻き込まれ、ゆっくりと、慎重に、引っ張れば切れてしまいそうに細い糸を手繰り寄せ、得られていく手がかりは確かな確信へと変わっていく。

「踊りなさい! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲ワルツで!」
「今のはジャブだからね」
「この距離なら、はずさないっ!」
「だが、私の停止結界の前には無力!」
「……じゃあ、いくぜ偽者野郎」

 それはまるで砂丘の中からダイヤモンドを探すような、目の前にあるのにいくら手を伸ばしても届かないような、途方もない所業。
 やらねばならないと身体を奮い立たせて、青年はゆっくりと立ち上がる。

 どくん……!

 そして、動き出す石の力。
 願いを叶えようとして、しかし叶えることのできないその石は、新たな力を得て暴走する。

「なに、やってるのかな……?」
「呼ばれてなくても飛び出ちゃうんだよじゃじゃじゃじゃーん!」
「……貴様、何を隠している? 話せ」
「貴方がどうであれ、私は貴方の先生です。先生はいつでも生徒の味方なんですよ。えっへん」

 1人の人間の一途な想いが。
 1人の発明家のたった1つの願いが。
 世界中に散らばる数多の思いが。

「どうしてこうなった……?」

 暴走する。
 負けられない、大事な試合の最中に。
 仕事の範疇として、軍における任務中に。
 自身の制御を離れ、周囲を巻き込み、ただひたすらに暴れまわる。

「世の中“こんなはずじゃないことばっかり”、ってことかねえ」

 思い通りにうまくいく世界なんて、どこにだってあって、どこにもないもの。
 それは人に作ってもらうものではなく、自身で作り上げるもの。
 彼にとって、それは人に作ってもらうはずだった。自分はただ、それを享受するだけのはずだった。

「やぁ、やぁ、やぁ! このわたしが知らないキミのソレ、すっごく興味あるんだよ! ちょっと見せてくれないかな?」

 そうは問屋が卸さない。

「さて、仕事だよ。起きた起きた」
『わかっていますよ。私たちが出張らねばならないことくらい』

 願いが曲解され、際限なく叶えられたのがこの世界なのだから。

「ずっと探してたんだよ、お前さんを」
「おやおや、キミはわたしをご所望かな?」
「いんや、お前さんは自身どうでもいいの。探してたのは、お前さんが持ってる……」

 たった1人の発明家の手によって生まれたその世界は。

「21個のジュエルシードだけさね」

 もはや壊しようがないところまで、進みすぎている。

。好きなことは惰眠をむさぼること。嫌いなことは面倒ごとに巻き込まれること」

 これは、抗いようのない現実に立ち向かっているようで、ただ仰せつかった仕事をこなしていく、1人の青年の受難ものがたり

「みんな、楽しそうなところ悪いけど。俺を、面倒ごとには巻き込まないように。よろしく」

 期待はしないでください。


「あーあーあー、めんどくせめんどくせ」






IS面白いね! ぐぎぎ、ってなるところが、実に(笑)。
今年10月からアニメ2期やりますね。楽しみです。



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