「ふむぅ……んっ」

 目を覚ました少年は、辺りを見回した。
 白いパーカー付きフリースにぶかぶかなデニムのパンツをラフにはきこなすこの少年はあたりの異常っぷりにひどく面倒くさげに、乱雑に頭を掻き掻きため息を吐き出した。
 あたりは荒野。見渡す限りなにもなく、乾いた風が土剥き出しの地面はただ黒ずんだ茜色で。そんな明るい色とは対照的に、少年の頭上に広がる空は分厚く真っ暗な雲が覆い尽くしている。彼の好きな青い空も、肌を焼き輝く太陽の光すらも通さぬほどに、厚く。

 とにもかくにも、こうなってしまった……というか、なんで自分がこんな妙ちくりんなところにいるのかを思い出さねばなるまい。
 そんなことを思い立つと、少年はその場にあぐらをかいて考え込んでみた。

 この少年、名前をという。とある海辺の街で学生街道真っ最中なはずの14歳。中学2年生の彼はつい今しがた……というか気を失う前の話になるが。相棒のメンテナンスのために管理局を訪れていたはずだった……というか、待ち時間が長すぎて惰眠をむさぼっていたりしたはずなのだ。
 管理局とは、正式には時空管理局という。さまざまな時空を渡り、世界を又にかけて犯罪を起こす者――いわゆる次元犯罪者という連中を取り締まる。いわゆる日本で言うところの警察の規模を爆発的に大きくしたようなものと思ってくれていい。
 その中で働く人間……中でも、時に武力をもって事件を鎮圧する部隊を、武装隊という。犯罪者たちを相手に武力をもって介入、捕縛することを仕事とする軍隊的な部署に、彼は所属している。
 『相棒』というのは、彼が携えて共に戦場を疾る武具……デバイス。意思を持つそれは、彼らが『魔法』という力を行使するためには必要不可欠な存在だった。

「また、メンドくさいことになっちゃったなあ……」

 結局、考えたところでわからない。
 ただわかることは。

「ひたた」

 これが夢じゃないことと、

『何をアホなことをしてるんですか』
「アホじゃないよ、アストライア。この光景を見てさ、夢だと思わないほうが嘘だと思うんだよ、俺的にはさ」

 彼の相棒であり、現在絶賛メンテナンス中であるはずのデュアルデバイス『アストライア』が、彼の腰でその翠の輝きを称えていることだけだった。

「まあ、深く考えなくてもなんとかなるかなぁ……まあいいや」
『楽観的ですね』

 アストライアの減らず口は、相も変わらず健在だった。

 そんなやり取りを、1人さびしくしていただったのだが。

「うぉ……っ!?」

 突如響き渡る、耳をつんざく爆音と、雲を貫く雷光が、彼らに襲い掛かっていた。
 一山向こうの光景ではあるものの、しかし彼らの力ならば行けない距離ではない。
 誰もが一度は使うことを夢見る『魔法』の力で、ひとっ飛びなのだから。

「もしかしたらあそこに行けば、なにかわかるかもしれん! ……ほらみろ、なんとかなるじゃんか」
『わかりました。もう何も言いませんよ……さ、行くのでしょう?』
「もち!」

 がアストライアに返事を返した瞬間、彼の身体は光に包まれていた。
 身に纏うは、彼いわゆる彼の『仕事服』。
 黒光りする胸当てを同色を基調としたアンダースーツの上に装備し、細いラインの白いパンツは彼の足先……金属のプレートで覆われたシューズの足首までを完全に隠している。胸当ての上からは風にはためくほどに長い後ろ裾を持つ白いジャケット。肩口から腕の先にかけて薄いグレーのラインが走り、手は甲に貼り付けられたエメラルドのプレートが目立つ真っ黒なフィンガーレスグローブ。
 そして、首から下がるのは深い緑色の宝石がトップになったネックレスと、黒いチョーカー。
 とても仕事服には見えないほどに豪華なつくりには見えるだろうが、このジャケットはれっきとした彼の……戦闘服だった。

 彼が視界に捉えたのは、天を貫くように伸びた雷光である。彼の知る雷使いとは違い、爆ぜかえるその光は眩い白。彼女ではないと、それだけで理解できたのだが。

「とにかく、状況を確かめないとね……まったく、なんて面倒な」

 は小さく息を吐き出すと、もといた地面に砂塵を残して、宙へと浮かび上がったのだった。



 ●



瞬雷ケラヴノス……ッ!!」

 自らの剣を覆い尽くす雷光が、まっすぐ前に放出された。障害物は貫いて進む光景を眺めながら、しかし数が一向に減らない状況に冷や汗をたらした。
 純白の大剣を操るのは、すらりとした体格の少女だった。周囲360度を囲まれた状態で彼女はまるで舞い踊るかのような足運びで、しかしその一振りは必殺といえるほどに力強い。
 長い茶髪を真っ白な布でポニーテイルに結わえ上げた彼女は、まるでどこかの学校帰りのような様相だった。
 白いしみのない肌に、整った女らしい顔立ち。しかしその表情はキリのない状況と蓄積されていく疲労によって歪みきり、独特な真紅の瞳は自身に襲い掛かる『獣』をまっすぐ突き刺していた。

 彼女の名前は神楽坂アスカ。こんななりをしているが、性別上ではれっきとした『男』である。
 なんの因果かこんな女よりも女らしい顔立ちを持って生まれ、男としては不遇の扱いを受けてきた不運な人。そんな彼女……もとい彼は、いわゆる『魔法使いの従者ミニステル・マギ』という称号を持っている。その手に携えている彼の身長大の大剣が、彼を従者たらしめている証拠。『万象の剣』と銘打たれたその片刃の大剣は、『魔法使いの従者ミニステル・マギ』が持つアーティファクト……魔法使いマスターを守るための力であった。
 そんな大層な力を持っている彼だったが、倒しても倒しても減る気配のない獣たちに、正直うんざりしていた。
 そもそも、こんな場所になぜ自分だけがいるのかすらわかっていないのだ。気を失う前は確かに、自分は学校で授業を受けていたはずなのだ。ちょうど弟分――齢9歳の魔法使いの少年が修行のために教師としてやってきた女子中で、彼はその少年の修行っぷりを見守るためにと、自身を女と偽って授業を受けていたはずなのだ。
 15歳でありながら、生活のためにとグローバルに活躍していた彼。弟分の受け持ちである英語など、ぶっちゃけ楽勝。慣れ親しんだ声変わりをしていないトーンの高い声を子守唄に船を漕いでいたのだが。

「あーっ、もぉっ!! うっとおしいいいいいっ!!」

 気がつけば、この有様だった。
 群がって強襲を仕掛けてくる獣は、大型犬ほどの大きさだ。全身顔まで真っ黒なそれは、まるでにじみ出るように突然、地面から現れたのだ。
 突如襲い掛かられて、あせったのはもちろんアスカだ。ここがどこで、なんで自分がここにいるのか、なんて疑問すら考える前に、むしろ命の危機に晒されたりしていた。
 吹き飛ばし、肉を切り裂く感触が気持ち悪い。倒さなければそれこそ、獣たちはねずみ算式に増えていくのだ。なりふりなど構ってはいられない。
 アスカは右足を軸に腕力に遠心力を乗せて、まるで独楽のように高速回転。刃を寝かせての横回転。飛び掛る獣を断ち切り、吹き飛ばし、ただの肉塊へと変えていく。巻き起こる風は地面の塵を巻き上げた。
 しかし

「うわあああんっ!」

 獣たちは、いまだに彼の周囲を漆黒に覆い尽くしていた。

 そんな光景を目の当たりにして、へろへろと飛行していたは目を見開いた。
 魔導師でもないのに、周囲の敵を前に一歩もひかないほどの高い戦闘力。そして、近づけば近づくほどわかる常人にしては強すぎる魔力の波動。しかもそれは枯渇する気配もなく、むしろ彼に向かってどこからか流れ込んでいるようにも感じられた。
 そんなことを考えて、らしくないと頭を振るはどうしたものかと考えた。
 助けに入るのはいい。ただ助けに入ろうとして、自分のあの修羅場に飛び込むのはいかがなものか。ただでさえわけがわからないこの状況で、さらにわけわからなくなるのは、正直ゴメンだ。
 でも、なにかしらの情報は欲しいし…………

『どうするんですか?』
「もちろん、助けるよ。なんだか大変そうだし…………一気に潰してぱっぱと逃げよう」

 旅は道連れ世は情け、なんて言葉もある。

『了解……サンライトフォーム、セットアップ』

 手に携えた細身の槍の穂先が、物理的な法則をさらりと無視して肥大。刃の部分がエメラルドの魔力刃に覆われた、大戦槍が姿をあらわした。
 その穂先をまっすぐ、眼下の黒い集団へと向ける。刃の根元に装備されたシリンダーから、がしゅん、という音を立てて、4つの薬莢が飛び出した。

『カウント10、9、8、7、……』
「バレルショット……!」

 最初に放たれたのは、凝縮した魔力の塊。空気を切り裂いて目標へ向かっていくそれは、たったの1発で半分以上もの黒を薙ぎ払う。

『5、4、3、……』
「そこのおねえさーん!!」

 放たれるのは砲撃魔法。魔力のチャージが終わる前に、1人孤独な戦いを強いられていた少女に向けて大声をぶつけた。



「そこのおねえさーんっ!!」

 聞こえたのは、少しばかりトーンの低い少年の声だった。どこから聞こえたのかすらもわからないまま、アスカはただ我武者羅に剣を振るっていたのだが。

「ちょっと大きな砲、撃つから!!」

 そんな声と共に一点に凝縮された力が突然膨れ上がるのを感じて、空を見上げた。
 その先には、コスプレまがいの格好をした1人の少年の姿があった。手に持っているのは大きな槍。そして、その先端にあるモノを見て、目を大きく丸めて見せた。
 今しがた、獣の半分ほどを吹き飛ばした風の塊も、間違いなく彼が撃ったものだろう。……や、あまりの勢いでその場に留まるのが精一杯だったけど。

「ちゃんとよけてくれよ!」
「じょ、じょーだんいうなあっ!!」

 あわてて批判の声を上げたところで、彼は聴く耳を持つつもりはないらしい。
 助けてくれるのだろうと察することはできたが、そのやり方がちょっと……いや、かなりの勢いでヒドイ。
 槍を大きく振り上げて、少年は言う。

「大丈夫! ちょっと痛いだけだかr」
「痛いですむかそれっ!? 死ぬっ、死ぬから!!」

 アスカの声もむなしく、

『Count, Zero』

 どこからか、トーンの高いデジタルっぽい声が聞こえてきて。

「エンドレス・スレイヤー……!!」
『Endless Slayer……!!』

 渦を巻きながら発射された緑の光は、爆発の痕跡を残しながらも一瞬のうちにここまでやってきた。

「うわーんっ! この人でなし―――っ!!」

 アスカはあわてて防御しようとしたのだが、砲撃の足は速く、防御も間に合わない。
 真紅の目が緑に染まりきり、引きつった笑いを浮かべていたアスカだったが。

「まったく、なんつー助け方だよ」
「へ……うわっ!?」

 突然誰かに横抱きにされて、気がつけば。

「あれれ……?」

 アスカの真横すれすれを、緑の光線が通過していって。

「大丈夫、だな。まったく、災難だったね」

 1人の男性の声が、アスカの頭上から響き渡った。


 ●


 まったく。
 長年付き合い続けた『巻き込まれ体質』もついに極みに到達したかなとか思うわけで。
 青年―― は、今の状況をあまり深刻に考えてはいなかった。もともと、なにかしらの事件に巻き込まれて世界渡り、なんてことは前にもあったし。っていうか、時渡りなんかしちゃった時点で、自分の中の緊張感とか知らない場所に飛ばされる恐怖感とか、いろんなものが切れて落ちて踏み潰されてぐじゃぐじゃにされて消えてしまったような気がする。

「読者の皆様、お久しぶり」

 そんなわけで、はのっけから意味不明な挨拶をかましてみせた。
 まったくもって慣れというのは本当に怖い。まどろっこしいと叫んで二丁の銃を乱射するどこかの海賊娘なんかより、自分が女の人と仲良くしてるとなぜか黒いオーラを放つ某赤毛女教師なんかよりも、よっぽど怖い。
 よっこらせ、なんてオヤジじみた掛け声とともに身体を起こし立ち上がり、周囲と自身を見回す。
 服装はいつものシャツにデニムのパンツ。茶褐色のクロスベルトと左腰には長年連れ添ってきたあいぼうが提げられている。
 周囲は見渡す限りの荒野。そして、見上げると気分まで落ち込んでしまうほどにどんよりとした分厚い黒雲。

 ……まったく、今度はどこに飛ばされたのやら。

 なんてことを考えながら、は面倒くさげにばりばりと頭を掻いた。
 先ほども言ったが、彼はいわゆる『巻き込まれ体質』だった。行く先々で事件に巻き込まれ、死ぬような思いをしたことも数知れず。ようやく平穏な時間を過ごせるかな、と第二の故郷であるとある島に建つ屋敷の縁側で、のんびりと緑茶をすすっていたはずだった。
 湯飲みをあおりつつ風情をかみしめようとゆっくりと目を閉じて。開いたときには湯飲みを持ったまま地べたに正座していた。
 滑稽な姿ではあったものの、しかし彼は順応どころか一瞬にして自身の状況を理解していた。

 そう、巻き込まれたのだと。

 成り立った図式は、彼からすれば簡単すぎるもので。答えに至ったら最後、彼の行動は早かった。
 まずは、周囲に危険がないかを調査。自身の命を脅かす明確な“敵”の存在の確認だ。
 続いて、人および街、村の有無だ。空は曇天、地面は見渡す限り荒野であることを考えると、街はおろか村も、きっと人なんか髪の毛先ほどもいないだろう。
 そもそも、“ここ”は空気が悪い。彼が今住んでいる世界の空気を清流の水とすれば、この世界のそれは消毒の限りを尽くした都会の水道水といったところか。この世界にはなにかよくないものがいると言うことは、まず間違いないことだろうとは考えた。
 最後に、自分が還るにはどうすればいいか。今までの経験上、自分が『喚ばれる』ことにはなんらかの意味がある。この世界で何かを成せば、還る事はできるはずなのだ。意味もなく召喚されることなんて……まず、ありえないから。

「こんなところでじっとしててもらちがあかないか……とりあえず、動こうかな」

 相棒を腰に提げて、一歩を踏み出す。
 目的地はとりあえず目の前の高い岩山。当てもなければ目的もない状態からのスタートだったが、何もしないよりはマシだろう。
 ……と、意気揚々と歩き出してから丸1日。そろそろ空腹でお腹と背中がくっつきそうになっている状況で、彼はようやく、まともに話ができそうな存在を発見することになる。それが誰かは、読者の諸君ならば理解できているだろう。

瞬雷ケラヴノス……ッ!!」

 黒いなにかに囲まれて、必死になって交戦している1人の少女だ。
 ようやく出会えたまともな人間だ。助けないわけがあろうか。考える必要もないまま、は疾風ごとく駆け出した。……鞘から、頼れる相棒を引き抜いて。

 ……そしたらどうだ。
 前方の空から声が聞こえたかと思えば、突然緑色の光が一点に集中し始める。
 吹き付ける風がの身体に激突しては左右に割れて、彼の疾走を阻害する。
 冗談じゃない。ただでさえ彼女は大変そうで、すぐにでも助けてやりたいところなのに、なかなか前に進めない。

「ちっ……しかたない、か」

 なけなしの力を振り絞り、両の足に力を込める。体内のエネルギーを一点に集中させ、瞬間的に爆発的な脚力を得た彼は、吹き付ける風などお構いなしにただまっすぐ突き進む。
 しかし、時間は無常にも過ぎていく。最初から、猶予はたったの10秒しかなかったのだ。中空に浮かぶ緑が、彼女を含めて黒い集団を蹴散らすまでには。
 だから、残り50メートルほどの距離を、その10秒より早く詰めねばならなかった。だから、彼が両足に力を集めたのはある意味で正解だったといえるだろう。
 9秒。彼女を抱えて離脱するには、まさに紙一重だった。

「大丈夫、だな。まったく、災難だったね」

 を見上げてきょとんとする赤い瞳が、の黒い瞳と交錯した。

「あ、あの……貴方、一体どこから……?」
「質問はあとあと。今は、お互いにわからない事だらけだと思うから、情報交換は上の彼が合流してからにしようよ。どうせ、時間はたっぷりあるんだしね」

 少女の問いに、は軽く微笑みつつウインクをしえ見せる。
 広いこの世界で、人に出会えるだけでもめっけもんなのだ。だから今は、腰を落ち着けて話ができる場が必要だ。残念ながら街や村は見当たらないが、ゆっくり話をするだけの時間はある。空腹が多少なり問題ではあるが……

 まあ、なんとかなるだろう。



 ●



 まずは、軽い謝罪から始まった。
 少年――が放った砲撃に関してだ。あれだけのエネルギー、撃てばどうなるかくらいわかるものだろうと諭しつつ、彼の事情から聞くことになった。
 彼はもともと、『ミッドチルダ』というところに住んでいたらしい。しかしながら、今は学校に通うためにとある海辺の街の、3つ年下の幼馴染の家にて下宿中の中学生。そんな彼が持っていた武器は、デバイスと呼ばれる彼の相棒。彼はいわゆる『魔法使い』という立場の人間だった。
 しかしながら青年も少女も、驚く様子はない。2人が2人、かなりの勢いで特殊な出であることや、身近にそういった存在がしこたまいたことも驚かなかった要素の1つだった。

 詳しい設定は、【魔法少女リリカルなのは Re:A's】を見るようにしましょう。

 続いて話を始めたのは、先ほどまで黒い何かと交戦していた少女だった。彼女の名前は神楽坂アスカ。とある学園都市で、女子中の生徒を渋々しているらしい。そんな物言いに首をかしげたのはもちろん残りの2人だ。
 性別的には女なのだから、女子中に通っているというのはなんら問題はないはずなのだから。
 そろって首をかしげた2人に、アスカはやっぱりか、と言わんばかりの……というかすでになにかを諦めたかのように苦笑し小さくため息をついた。

「あの、2人とも勘違いしてます」
「「……なにが?」」
「僕が女だから、女子中に通ってると思ってる」
「「そりゃまあ、そうでしょ?」」

 声をそろえて答えてくる2人に、さらにため息。
 そして。

「こんな姿形ナリしてますが、僕男ですから」

 爆弾発言を投下した。
 言うまでもなく、この発言に2人は目を点にした。
 みるからに女の子している目の前の人間が、こともあろうに『男』であると、そう言ったからだ。信じられるわけもなく、

「いくらなんでも冗談がすぎるって、おねーさん」
「……ふむ。まったくもってと同意見だ。こんな状況で俺たちをからかうっていうのは、ちょっと不謹慎だと思うぞ?」

 2人はもちろん、信じるわけもない。

「こんな状況で冗談なんていいません。……わかりました。証拠、見せればいいんですね?」

 低い声でそう呟いたアスカは。

「わっ、わーっ!!??」
「おいおい、こんなところでおもむろに服脱ぎ始めるなって」

 身体を直接、見せる以外に彼らを信じさせる方法はないという結論に達した。
 ……否、結論に達したとかそんな次元の問題ではない。今までずっと女の子の中で自身の身分を隠してきたこともあり、いろいろとくすぶっていたのだ。
 なにが、なんて野暮な話はいいっこなし。今はただ、心も身体もはっちゃける場が欲しいだけなのだ。

「「ご、ごくり……」」


 〜ここからは、音声のみでお楽しみください〜


「……やば。なんかむらむらしてきた」
。物事には分別というものを持つこと。大事なことだぞ?」
「そんなこと言われたってさ……目の前で女の子が着替えなんて、滅多にないシチュだと思いません?」
「まあ、それは確かにそうだが」
「でしょ!? それなのになんなんです貴方は!? こんな光景見て、男ならムラっとこないは、ず……が……」
「////」
「……なんだろう、この胸にぽっかり穴が開いたような感覚」
「君が期待してたのは、いったいどういう光景なんだろうね? ……こんな状況で、不謹慎にもほどがあるぞ」
「むぐぐ……あー、なんかいろんなことが面倒になってきちゃったなあ」
「あのさ、そろそろいいでしょ? ってか、僕が男だってわかってくれた?」
「ああ、恥ずかしい思いさせてすまない」
「いや、まあ慣れてるし」
「働いたら負けかなぁ……」
「おいそこの少年ニート。いい加減現実を受け止めなさい」
「ああああ、なんかやるせない……誰かこのずたずたハートを癒してくれえっ!!」
「ぼ、僕でよければ……///」
「うわあそんな頬を赤らめて寄るな寄るなこのオカマちゃんめ!」
「お、オカマちゃん……OTL」
「こら、言い方ってものを考えろって!」
「うっさいやい! 男のくせにそんな女みたいな顔しやがって!」
「すっ、好きでこんな顔になったわけじゃないやいッ!!」


 ……


 …


 彼女……もとい、彼の活躍は『魔法先生ネギま! -白きつるぎもつ舞姫-』をどうぞ。

 最後は青年の出番だ。3人の中では最年長ということもあり、今まで落ち着いた様相を見せていた彼だったが、今までの2人よりも波乱万丈な経験をしているのは確かなことといえるだろう。
 出身は日本。ひょんなことからリィンバウムという世界に召喚され、さまざまな事件に関わってきた。
 召喚術と呼ばれる、隣接する4つの世界から召喚獣を喚び出す存在を召喚師と呼び、彼らが世界で一番力をもつ存在であることが常識である世界。
 そんな世界で彼は、度重なる大きな戦いを生き抜いてきたのだ。落ち着き方の……というか、考え方の年季が、2人とは段違いであることは、纏っている雰囲気からしてまさにそのとおりであった。
 ……もっとも、その分だけいろんな意味で“枯れて”しまっているわけだけど。

 こんな彼の活躍は、『サモンナイトシリーズ』の連載をご覧あれ。

 そんなこんなで自己紹介も終わって、次にするべき話としてお互いの情報交換があった。
 しかし、アスカもも、なぜここにいるのかすらわからない。気がついたらここにいたのだ。さまざまな世界で起こる犯罪を防ぐ時空管理局の局員とはいえ、ミッドチルダの技術を伴わない世界跳躍なんて、聞いたこともないのだ。
 っていうか、そもそもそういった細かな話が苦手な彼では、見解を述べることだってできやしない。

『ダメダメですね、マスター』
「うるさいやい」

 そして、世界がいくつもあることを知るわけもないアスカは論外。平行世界という概念はただ名前だけ知っている程度で、情報としてはまったく役に立たないもので。
 彼が自慢できるのは、遭遇した黒い獣たちのことだけだった。

「あいつら、まるで湧き出してくるみたいに現れるんだよ」
「魔法的生物ってことか?」
「う〜ん、魔力みたいなものは感じられなかったけど。アレが魔力で編まれてるなら、あんな生々しい感触なんて……」
「確か君の得物は大剣だったよな。斬った感触があったってことか」

 の見解に、アスカは小さくうなずいた。
 空から見ていたは、その数がどれほどであるかをおぼろげながら感じられた。アスカのいた半径1.5メートルほどを除いて、周囲100メートルほどが黒で埋め尽くされていたのだ。その数がどれほどであるかなど、考えるだけ無駄というもの。だからは、考えることをせずに黙ってアストライアを構えたのだ。
 その行動は、諭されたとはいえあながち間違いではないだろう。実際に“敵”の量を把握できなければ、わからない感覚なのだから。

「まあ、深く考えても始まらないか。まずはお互いに、同じ境遇の仲間に出会えた事を喜ぼうや」

 はそんな言葉で話し合いを締めくくった。
 3人がこの世界に喚ばれたのには、きっと何らかの意味がある。
 なにかを成すために、彼らはこの世界に召喚されたのだ。

 膨大な力を持った質量の破壊か、世界に大きな影響をもたらしている者の打倒か。はたまた、この世界にあるべきものを、あるべき場所へ戻さねばならないか。
 問いの答えが何であれ、動いていればいずれ答えは見つかる。
 それまでは、世界を超えての邂逅だ。そんな特殊な出会いができたことを、幸運に思うこととしよう―――。





  
"十六夜の月" 4周年記念&100万Hit記念SS
  
前編 『始めはまずは出会いから――』





 声が聞こえた。
 それはかすかな、笑い声。
 真っ暗な空間にたたずむその影は、両手に抱えた3つの球体を強く抱きしめて、1人笑っていた。
 青白く光る球体は、一つ一つが世界のそれ。内包している現象や質量、情報は計り知れない。そんなものを3つも抱いて苦しい顔1つ見せていないこの影の正体は、一体どんな存在だというのだろうか。

「ふふふふ……主人公たちよ、私の手の上で踊りなさい」

 その答えは、いずれ彼らがたどり着いた先にある。
 苦しげに、しかし極限までいとおしく。

 影は、それらを抱きしめる―――。





というわけで、始まりました。
『十六夜の月』的お祭りです。
連載各種のオリジナル主人公たちが一堂に会しての1つの物語です。
1つ注意しておくと、このお話はあくまで番外編ですので、本編とは一切関係ありませんので。

ブラウザバックです。

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