「霧島主任」
「なんですか?」


作業中の私を主任と呼んだのは、白衣を着た眼鏡の似合う男性局員だった。
年齢で言えば・・・・・・・まあ、言うまでもなく私よりも年上だ。
入局してまだ一年も経っていない新人だけど、その腕は確か。
でも生真面目でどうも考え方が堅いので、私としてはもう少し柔軟に物事を考えれるようになるべきだと思う。
年上相手に何を言っているんだと誰もが思うだろうけど、実際問題、彼は私の部下だったりする。

―――――――――時空管理局第05技術開発部。

闇の書事件が終わった半年後、私は皆への公言通りデバイスマスターの資格を取得した。
しかもそれが取得記録が最年少だったこともあり、その功績を認められて2年後にはこうして技術開発部の開発主任を任されたりしている。
たまに武装局員として借り出される時もあるけど、専らここに篭って研究ばかりしていた。


「主任にお会いしたいという局員がきているのですが・・・・・・・・・・」
「誰ですか?」


私が彼に問いかけると、不意に彼の背後の扉が開いた。


「やっほー、久しぶりー」


顔を出したのは、小さな眼鏡を鼻にかけた その人だった。










ある管理局での一風景









「珍しいわね。本局の方にわざわざ来るなんて」
「ちょっとした野暮用だよ。野暮用」
「野暮用ね」
「そう、野暮用」


こうして私と話す彼―――――― はミッドチルダの首都防衛隊の魔導師だ。
魔導師ランクはA+と私やなのはたちほどの魔力量はないけど、彼はそれを主に近接戦闘などで補っている。
管理局きっての近接戦闘のエキスパートで、その実力は計り知れない。
何せ、あのクロノ君とまともにやって互角以上に戦うのだ。私としては彼を普通にAAAクラスと言っても過言ではないと思う。
それに何より、彼には誰よりも頼れる相棒がいた。


『お久しぶりです。ドクター』
「久しぶりアストライア。どう、調子は?」
『ええ、この人さえちゃんとしてれば特に問題はありません』
「いやいやアストライア。俺はサボりこそするけど任務はちゃんとやるよ?」
『一日5分でいいから真面目になってください』


こうして彼と漫才を繰り広げているのは、彼の相棒であるデバイス―――――――アストライアだった。
インテリジェントデバイスの試作後継機で、正式名称をデュアルデバイスという。
同時に2種類の魔力体系に同時に扱えると言うだけあって様々な状況に対応でき、またそのスペックも従来のデバイスに比べるとかなり高い位置にある。

しかしそれが仇となってか、玄人向けのデバイスになってしまったのも確かだ。
デバイスマスター内でも実際に整備できる人間も限られてるし、扱うにしてもまだそれほど普及しているわけでもない。
もはや彼専用のデバイスといっても過言ではない代物だ。


「それで、今日はわざわざ雑談でもしにきたの?」
「いや、野暮用ついでにアストライアを見てもらいにきたワケだよ」
「部隊の方で何とかしてもらえないの?」
「いやね、機材が足りないだとか構造がイマイチ分からないとかで、まったく手がつけられないんだってさ」
「・・・・・・・・・ああ、デュアルデバイスだもんね」


先ほども述べたとおり、デバイスマスター内でもその整備をできる人間は限られてくる。
ミッド式のインテリジェントデバイスと、ベルカ式のアームドデバイスを足して2で割ったような構造と思っている技師も多いけど、それは大きな間違いだ。
魔力の出力から起動シーケンスが根本からして違い、マニュアルを読まないとまず構造は理解できない。
まともに整備できる人間と言えば・・・・・・・・・まあ、私を含めた一握りのデバイスマスターぐらいだろう。


「そこで、天才デバイスマスターでもある霧島 蓮殿のお力をお借りしようと言うわけなのですよ」
「ついでにでしょ?」
「いや、まあ・・・・・・・・その発言はスルーしてもらえるとありがたいのですが」
「生憎、記憶力は良い方だから難しいわね」


だけど息抜きにはなるだろうと思う。
私は彼に向かって手を差し出し、アストライアを渡すように促した。


「まあいいわ、そろそろ休憩時間だし見てあげる」
「おお!助かる!!」


まあ、わざわざ訪ねてきた彼を無下に扱うわけにはいかないしね。




















「コーヒーでいい?」
「ああ、よろしく〜」


気だるげに言葉を返すと、彼はきょろきょろと室内を見回し始めた。
まるでその仕草が子猫のようなもので小さく笑ってしまうけど、それを隠すように背を向けて私は適当なマグカップにコーヒーを注ぐ。
とりあえず「機器関係には触らないでよ」と言っておくけど、私が振り返った時にはすでに私のデスクのモニターに張り付いていた。

・・・・・・・・・一歩遅かったか。


「およ?これって・・・・・・・・・」


モニターに現れた文字の羅列と複雑な図は素人目には分からないものだけど、どうやら彼は分かったみたいだ。
まあ、彼にとってもそれは親しみのある技術だし。


「新型のカートリッジシステムの設計図よ。カートリッジのほうは完成したけど、システム自体はまだまだね」


そう、私がここの開発主任を任されてからずっと研究しているのが、この新型のカートリッジシステムだ。
まだコスト面や安全面に問題はあるけど、実用化にはそう遠くない。
実用化すれば魔力の低い魔導師でも確実に高い魔力を出力できるため、管理局の戦力増強に繋がると上層部も期待してるみたいだ。


「ふ〜ん・・・・・・・・でも、なんでまたカートリッジシステムなんかを?」
「・・・・・・・・・貴方にそれを聞かれるとは思わなかったわ」


けど、返ってきた言葉に私は呆れて溜息をついた。
理由は簡単。彼が最初に使っていたデバイスが、カートリッジシステムを搭載したベルカ式のアームドデバイスだったからだ。
だからこそヴォルケンリッター以外の管理局の魔導師で、誰よりもベルカ式のことを熟知していると思ったのに・・・・・・・・・


「今アストライアが整備中だっていうのが残念だわ」
「いやね、最近のアストライアの俺に対する発言がどうも過激だと思うんですけどね、どう思いますか?」
「半分自業自得じゃないの」


ツッコミ役が私だけというのもなかなか心苦しい。
たいてい彼にツッコミを入れるのはアストライアだったりするけど、生憎彼女は整備中だ。
間が持たないというわけじゃないけど、一つ溜息をついて私は彼に説明を始めた。


「カートリッジシステムは簡単に爆発的な魔力を得られるけど、その分制御は難しいし、
術者とデバイスに与える負担は馬鹿にならないの」
「・・・・・・・・・ソ、ソレグライシッテマスヨ?」
「目が泳いでるわよ」


お調子者というか楽天的というか何と言うか・・・・・・・・・


「・・・・・・・・・貴方たちは平気でカートリッジシステムを多用してるけど、下手すればデバイスからなにから暴発して簡単に吹き飛ぶわよ」
「ま、マジで?」
「マジよ」


そう、私が愛機―――――――――アトラスティアに最後の最後までカートリッジシステムを導入しなかったのもそれが理由だ。
危険を伴う戦闘において、私としてはできるだけそういった不確定要素は取り除いておきたい。
暴発的な魔力の解放はデバイスにだって負担はかかるし、何より使い手にだって危険を及ぼす。

・・・・・・・・・特に、だ。


「そして、その危険性が今一番高いのはなのはよ」
「なのはちゃんが?」


予想通り首を傾げる彼。
どうも説明役に回っている気がするけど、今回も私は説明する。


「だってそうでしょ?ただでさえ体に負担のかかる砲撃魔法を主体に戦ってるのに、さらにはカートリッジシステムよ?体が壊れないほうがおかしいわよ」
「・・・・・・・・」


なのはの戦い方を考えれば、誰もがその答えに行き着くはずだ。
大出力の砲撃魔法に、詠唱時間の短縮及び爆発的な威力を出力するためのカートリッジの大量ロード・・・・・・・・・・
体にかかる負担は相当なもので、それこそ何時体を壊してもおかしくはない。
しかも本人は教導隊を目指して馬鹿みたいに努力するから、その負担は大きくなっていくばかりだ。


「だから、私は無負荷で安定した魔力制御のできるカートリッジシステムを造ってるワケ」


なのはの性格を考えると、いつもの腑抜けた笑顔で「大丈夫だよ」と言うに違いない。
フェイトや周りの皆の言葉を一切聞かない分からず屋のため、正直それは私たちの悩みの種の一つだ。
私が考えつく唯一の抑止力と言えばこのぐらいで、完成さえすれば体にかかる負担は劇的に減少する。
あの馬鹿が大怪我する前に完成させると言うのが、当面の私の目標だ。

・・・・・・・・・ふと彼を見ると、ニヤニヤしながら私を見ていた。


「つまり、なのはちゃんが心配で心配で仕方ないと?」
「そ、そういうワケじゃないわよ。ただ、私は・・・・・・・・・」
「いやいや、蓮ちゃんは優しいねぇ〜?」


口篭った私を畳み掛けるようにして、彼は一気に根拠のないことを好き勝手口にする。
決してこのカートリッジシステムはなのはのためだけではなく、管理局の魔導師の戦力増強のためでもあることを忘れちゃいけない。
後は私自身の技術力がどれほどなのかを計る通過点でしかなくて、私としては私情を挟んでいるつもりはない。

・・・・・・・・・そう言っても、どうせ彼は信じてくれないだろうが。


「お邪魔する・・・・・・・・・っと、君もいたのか」
「お、クロノ君」


何とも言い難い敗北感に苛立っていると、本日2人目の珍しい客人がやってきた。
黒を基調としたバリアジャケットを纏った彼は、どちらかと言えば本局の制服よりもそちらの方を主に着ていたりする。
本日2人目の客人は管理局でも有名で有能な執務官、クロノ・ハラオウンその人だった。


「今日は何の用?」
「ああ、S2Uとデュランダルのメンテナンスを頼みたいんだ」


そう言って私に手渡したのは2つのカードだ。
普通の魔導師とは違い、クロノ君はS2Uとデュランダルと呼ばれたこの2つのデバイスを使用しているのである。
それはなかなか高度な技能が要求される戦闘スタイルだけど、それを使いこなすと言うのだから本当に彼は器用だと思う。


「先客もいるから少し時間がかかるけど・・・・・・・・いい?」
「構わないよ。緊急招集さえかけられなければ、今日の仕事は終わったようなものだしね」


そう答えると、クロノ君は君の隣のイスに腰を下した。
珍しいこともあるものだと私が言うと、彼も苦笑気味に「近いうちに何か起きるかもね」なんてことを口にする。
嵐の前の静けさとでも言いたいのか、それには思わず私も笑ってしまった。


「何か飲む?コーヒーしかないけど」
「じゃあそれで頼む」


君と同じように適当なマグカップにコーヒーを注ぐ。
クロノ君にそのマグカップを手渡すんだけど・・・・・・・・・ふと妙な視線を感じた。
少し視線をずらせば、今だニヤニヤとした笑みを浮かべた君がいた。
何となく嫌な予感がしたので、クロノ君に聞こえないように彼に向かって念話を飛ばす。


(・・・・・・・・・なにかしら)
(いやね、クロノ君相手だと妙に態度が違うなぁと)
(・・・・・・・・・別にいつも通りよ)
(いつも通り、ねぇ?)


ニヤリと、一層不敵な笑みを浮べる君。
・・・・・・・・ああ、この表情は見たことがある。
例を上げるとするならば、それは姉さんやエイミィがよく浮べる表情だった。
嫌な予感は的中するものだと、私は内心溜息をつく。


(そうそう。エイミィが言ってたんだけどさ、クロノ君明日珍しく休みらしいよ?)
(なんでそれを私に言うのよ)
(いや、デートにでも誘えばクロノ君喜ぶんじゃないの?)


ガタンッ!!


「どうしたんだ、蓮?」
「・・・・・・・・・なんでもないわ」


いきなり立ち上がった私にクロノ君はそう問いかけるけど、私は冷静を装って静かに腰を下した。
ちなみに、クロノ君の隣に座る天邪鬼は依然としてその表情に小悪魔的な笑みを浮かべていた。


(後で覚えておきなさいよ・・・・・・・・・・)
(いやー、どうも俺ってば物覚え悪いんだよね〜)
(貴方って人は・・・・・・・・・)


手元にアトラスティアがあればブチ貫いてやろうと思ったけど、生憎彼のアストライアと一緒に整備中だった。


「まあ、お邪魔虫はここいらで退散するとしましょうかね。時間になったら取りに来るから、アストライアのメンテよろしく」
「あ、ちょっと待ちなさい!!」


けど、私の制止を振り切り、君は素早く部屋を出ていった。
さすがは魔力の変換資質に『風』を持っているだけあってか、逃げ足だけは速い・・・・・・なんて上手いこと言うつもりはないけど、
この行き場のない怒りと妙な気恥ずかしさをどうすればいいのだろうか。


「またがなにかやらかしたのか?」
「・・・・・・・・ええ、そんな感じ」


静かに答えて、私はデスクのモニターへと向き直って仕事を始めた。
クロノ君のことを話してただなんて、口が裂けても本人には言えない。
なんでこんなにも引っ掻き回されなければならないのかと理不尽な不可抗力(君)を恨むけど、とりあえず自分を落ち着かせるようと深呼吸。
作業をするにあたって、冷静でなければ必ずミスが生じる。
それは私なりの信条なんだけど・・・・・・・・・ふと、君に渡したマグカップが目に入った。

いつの間に飲んでいったのか、その中身は空っぽだった。


「・・・・・・・・・ほんと、抜け目ないわね」


私は本日何度目になるか分からない溜息をつくと、黙って作業へと戻ったのだった。







4周年&100万Hit記念としてSpazioさまからいただきました。
ウチの夢主とSpazioさまのサイトの連載主が共演、何気ない一日の一幕を書いてくださいました。
こういう何気ない日常のお話って、結構好きなんですよね。
どがつくほどのシリアスしか書けないわりに、私はシナリオに関しては結構ストライクゾーンが広いんだな、とか再認識しつつ、読みやすい文章に舌を巻いておりました。
私なんかの書く文章よりよっぽど、破綻とか矛盾とかもなくて、正直安心して読めました。
Spazioさま、ありがとうございました!!

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