「話って何ですか? 学園長」

 朝のホームルームが終わると急遽呼び出されたアスカ。
 次の授業は国語、あの夜一の授業だ。
 遅刻したら何言われるか分かったもんじゃない。

「う〜む。実は麻帆良で封印していた妖怪がおったんじゃが封印が解けてしまってのう」
「えぇ!!? 一大事じゃないですか」
「うむ。その妖怪がまた厄介でのう。妖怪自体には大した力は無いんじゃが、その妖怪に取り憑かれた者は・・・・・」
「も、者は?」
「『悪』に染まる」
「悪・・・・・?」

 『悪』と言えば、割と聞き慣れた言葉だが、イマイチパッとしない。
 人を襲ったり物を盗んだりするって事かな。

「・・・・・僕にその妖怪の退治を?」

 何故自分がここに呼ばれたのかを大体理解したアスカは学園長に問い質した。

「退治出来るのなら、それに超した事は無いんじゃが。恐らく大変じゃろうし封印を目当てにしとくれ」

 退治ではなく封印。 魔物等の相手に『封印』と言うのは未経験だ。
  って言うか、封印術なんて持ってないし。

「学園長・・・・・前にも言いましたけど僕、封印なんかやった事無いんですって!」
「この瓶を向けると妖怪を吸い込む。あとは栓をすれば封印完了じゃ」
「・・・・・それだけ?」
「それだけじゃ」

 思いのほか簡単だ。
 それならタカミチや真名や刹那が出るまでもない。
 ・・・・・アレ? 僕低く見られてる?

「まぁ・・・・・いいですよ。僕でよければ」
「ではそういうことじゃ。よろしく頼むぞい。授業に遅れたら大変じゃろ?」
「そうなんですよね・・・・・じゃあ失礼しました」

 アスカは振り返り、部屋を後にした。
 扉を閉め、教室に向かおうとした直後。
 授業の開始を告げるチャイムがアスカの耳に入る。

「う、うわあああ!!!」

 授業中にも構わず絶叫し廊下を全力疾走。
 夜一がまだ教室にいない僅かな可能性に賭けてアスカはただただ走った。
 教室に着くと、アスカはそのままノンストップで教室に飛び込んだ。
 しーんと静まっていた教室にアスカがダイブする騒音が響く。
 一同の視線がアスカに刺さる。

「ヨイチは・・・・・?」

 怖ず怖ずと明日菜に夜一の事を聞く。

「まだよ。珍しいわね・・・・・早く座んなさいよ、何言われるか分かんないわよ」
「そうだね・・・・・」

 アスカが自分の席に向かおうとした時。 

「なんか騒がしいと思ったら、お前かアスカ」

 真後ろにいたのはアスカよりも背が低いスーツを着た銀髪の少年。
 ヨイチこと黒咲夜一だった。

「いや、その、これには訳が」

 不意を突かれ、呂律が回らないアスカ。

「訳だぁ? 何だよ訳って」
「学園長に呼び出されました・・・・・」
「そうか、じゃあよし」
「分かりました、廊下に・・・・・えぇ!!?」

 あっさり許しを得たアスカはつい驚いた。
 アスカだけじゃない、クラス全体がざわめいている。
 ヨイチが遅刻を許すなんて・・・・・いつもなら「廊下立ってろ」とか言ったりするのに・・・・・
 いやいや、

「水の入ったバケツを持ちながら廊下立ってろ」

 とか言うハズ・・・・・そんなもんやないよ、

「水と砂の入ったバケツを持ってヒンズースクワットしながら廊下立ってろ」とか・・・・・
「おいコラ。いくらなんでもそこまでしねぇよ」(それいいな・・・・・貰っとこ)

 夜一がそういうと教室は静かな笑い声が広がった。

「ホレ、早く座れアスカ。亜子が言った事されたいか?」
「ハイ座りまーす」

 足早に席につくアスカ。
 周りを見回し、妖怪に憑かれていそうな人は見当たらない。

 国語の授業が終わって 更に詳しい事を聞くためにアスカは学園長室に向かって行った。
 向かっていた途中の廊下で出くわしたのは

「よ」

 夜一が後ろから歩み寄り、アスカと並んで歩く。
「ヨイチか・・・・・どうしたの?」
「暇だからブラついてんだよ。お前こそどこ行くんだ?」

 けだるそうに欠伸をしながら夜一はそう言った。

「・・・・・学園長のとこまでね」
「妖怪について聞きに行くのか?」
「うん・・・・・えぇ!!?」

 またも不意を突かれたアスカはつい答えてしまう。
 それに自分で気付き、口を手で覆う。

「やっぱ図星か」

 勝ち誇った笑みを浮かべる。
 アスカは参ったと言わんばかりの溜め息。

「ハァ・・・・・聞いてたの?」
「面白そうだったからな♪」
「『からな♪』じゃないよ・・・・・一大事だよ?」
「まぁ一大事って言えばそうだけど・・・・・その妖怪について知りたい?」
「知りたいから学園長のとこに行くんだよ」
(っていうかヨイチこの事知ってた からあの時何も言わなかったのかな)
「ははは! 道理だな。その妖怪は『乱理(ランリ)』って言う寄生型の珍しい妖怪だ」
「らんり?」
「取り憑かれた奴が悪になると言えば、そいつしかいない」
「そうなの?」
「そうなの」

 どうやら夜一はこの妖怪に詳しいようだ。
 色々聞いてみたら分かるかな?

「ねぇヨイチ、その妖怪って」
「聞くより見たほうが分かりやすいぞ」

 そう夜一が言うと左側の廊下を指差した。

「なっ何コレ・・・・・」

 そこには床、壁、天井にチョークで落書きが施されている。
 うずまき太陽や雲、棒と円だけで描かれたような人の絵。
 それはもう幼稚な落書きだ。

「誰がこんな事を・・・・・」

 呆気に取られたアスカ。

「さぁな。誰だろうが関係ねぇよ、探すぞ」

 夜一は落書きを辿って走り出し、アスカはそれを追う。
 そして夜一が止まり、アスカが追い付き見た先には。

「に、新田先生!?」

 生活指導の新田が地べたにはいつくばって落書きを書いている光景だった。
 世界征服の計画を企てているかのような不敵な笑みを浮かべながら落書きを書いている。
 余りにも現実離れした光景にアスカは唖然とするしかなかった。

「『悪』って・・・・・もっと恐ろしい事かと思ってたけど」
「善悪の区別がつかなくなって、そいつの欲求が爆発する。それが乱理の力だ。欲求が爆発しちまえば、ほぼ百パーセントの生き物は悪事を働く」
「簡単に言えば『悪戯っ子』になるってこと?」
「まぁ、それが1番合ってるな」

 なんかショボイ・・・・・けど止めさせないと!

「新田先生!!」

 アスカが呼ぶが、反応が無く、ただ黙々と落書きを書いている。

「ねぇヨイチ、戻すにはどうすればいいの?」
「一発脳天を殴る。グーで」

 夜一は右手で握り拳を作る。
 そして、有無言わず新田を殴り倒した。
 日頃の鬱憤を拳に乗せたように、気持ちの篭ったゲンコツだ。
 強烈な一撃を喰らった新田はバッタリと床に伏っした。

「出るぞ」

 夜一がそう言った直後、新田の頭から黒い固まりが勢いよく飛び出た。

「えぇ!!?」

 あまりの速さに、アスカは何も出来ないまま黒い固まりは廊下を飛び抜けて行った。

「あ〜あ。ダメじゃん、追わないと」
「だったらもっとテンション上げて言ってよ!!!」

 黒い固まり――乱理はあっという間に見えなくなった。

「じゃあ、俺探してくるし。落書きと新田は任せた」

 そう言うと、夜一は一目散に乱理を追って行った。

「ちょっとヨイチ!」
「うう・・・・・」

 夜一を追いかけようとした時、新田が意識を取り戻しかけていた。
 アスカ+大量の落書き=新田「お前がやったのか!!!」

 一瞬で計算式がアスカの脳内で成り立った。

「これは・・・・」

 新田は不思議そうに落書きを見渡す。

「あ、いやっ、これは・・・・その・・・・」

 口ごもりながら後ずさるアスカ。

「君が書いたのか・・・・?」
「違います!」

 必死で訴えるアスカ。
 新田はアスカの目をじーっと見る。

「嘘を付いている目ではないな。行ってよし」
(たすかった・・・・)

 それから昼休み。
 簡単に済ましてるけど、その間に三人の取り憑かれた生徒を相手にした。(主にアスカ)
 一人は休み時間に購買の品を盗もうとした男子生徒。
 一人も休み時間、女生徒のスカートめくりをしていた女生徒。
 もう一人は授業中指名され黒板の前に立ったが、チョークを使わず爪で引っ掻いて書いた。
 当然音が酷い。
 幸いこれは隣の教室だったので、こっそり後ろの戸から抜け出して事を得た。
 因みに夜一は奮闘しているアスカを見ているだけで、「こっち行ったぞ」とか指示を出しているだった。

「わざとやってるの?」

 昼休みの食堂、アスカは盛り蕎麦をすすっている夜一に言った。

「別に俺が出ずとも、うまくやってんじゃん」

 呑気に蕎麦をすする夜一。
 当然そんな理由じゃ納得いかないアスカ。

「もし大事故になったらどうすんの? 責任取るの? ん? ん? んん?」

 ずいっと笑顔を貼り付け黒いオーラを放ちながら詰め寄るアスカ。

「わ、分かった分かった。だからそのイヤなオーラを消してくれ、食が失せる」

 気圧されても口は減らない夜一。

「全くもう。次から手伝ってよね?」
「へ〜い」
「アスカさん」

 声を掛けたのは刹那。
 両手で焼き魚定食の盆を持ってアスカの背後に立っていた。

「あ、刹那。どうしたの?」
「今朝から妙な妖気を感じて・・・・今の二人の会話を聞いてると、何か関係しているのかと思いまして」

 刹那はアスカの隣に座る。

「う〜ん。ヨイチ、言っていいかな?」

 アスカは向かいに座ってる夜一に聞く。

「いんじゃね? 問題無いだろうよ。つ〜か魚旨いな」

 いつの間にか刹那の焼き魚を奪ってムシャムシャ食べている夜一。

「あ〜!! またやったなこの・・・・!!」
「精進が足らんわ、精進が」

 そういいながら今度は味噌汁を飲む夜一。
 かなりの早業だ。
 幼少から二人はこのやり取りを行っていたりする。

「あの刹那、説明するから・・・・聞いてる?」

 悔しそうに涙目になっている刹那にアスカは言う。

「え? あぁ、すみません。お願いします」

 キッと夜一を睨む刹那。
 苦労してるんだなぁ。と刹那を同情したアスカ。

「成る程。乱理ですか」
「そう。今朝から探し回ってるんだけど、なかなか捕まえれなくて」
「誰かさんのせいでな」
「全くだよ」

 ムスッと夜一を見るアスカ。

「分かりました。私も手伝いますよ」
「ありがとう刹那。助かるよ」
「いえ。そこにいるのだけではアスカさんも大変でしょう」
「ハッ!!」

 不快そうに啖呵を切る夜一。

「キャー!!! タコ焼きがー!!!」

 賑わいを断ち切るおばちゃんの叫び。
 それを聞いた三人は悲鳴の聞こえる方向を見る。
 悲鳴の内容からすれば、タコ焼きを窃盗した輩がいるらしい、食堂の出口へ向かって走って行く女生徒が見えた。
 その女生徒は薄い青のショートヘア、割と小柄で三人共面識があった。

「あ、亜子!?」

 一瞬しか顔が見えなかったが、確かに亜子だ。

「和泉さん・・・・でしたよね」
「ああ、俺もそう見えた。関西だからタコ焼きってか?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!! 追うよ!!」 

 すぐさま亜子を追い、食堂を後にする三人。
 さりげなく夜一がタコ焼きの代金をおばちゃんに渡したのはここだけの話。
 廊下は、昼休みだから人がよく通る。
 その人目につく廊下を亜子とアスカ達は追い掛けっこしていた。

「和泉さん・・・・速くないですか?」

 亜子を追いながら刹那は言った。
 刹那もアスカも夜一も、身体能力は一般人とは比べものにならない筈。
 だが亜子はその三人に逃げ切っている、ついこの間まで一般人だったのに。

「無意識に魔力を供給してんじゃねぇのか?」
「亜子・・・・いつの間にそんな事を・・・・」

 亜子の才能か、影の努力か。

「って、そんな事言ってる場合じゃ無いよ!! このままじゃ逃げられる!!」

 三人がその気になれば追い付くことはたやすい。
 だがここは昼休みの廊下、人目に付きやすい。
 そんな中超スピードで走れば不審な目で見られかねない。

「刹那。修学旅行で使ってた人払いの札ある?」
「・・・・すみません。切らしてるんです」

 人払いの札があれば、気兼ね無く走れるんだが。

「必要無いみたいだぞ」

 夜一がそう言い二人が周りを見渡すと、いつの間にか生徒達は姿を消していた。
 ここ一帯の教室は体育や移動教室等で、生徒の行き来が他と比べて明らかに少なかった。

「ここなら・・・・!」

 アスカの周りに僅かな風が吹いたと思えば、アスカは陽炎の様に姿を消した。

 アスカが得意とする風のゲートだ。
 次の瞬間、アスカは亜子の真正面に姿を現した。

「ゴメン亜子!」

 そういうと平手で亜子の頭を加減して叩いた。
 亜子の頭から乱理の本体が飛び出し、亜子は気を失い倒れ込む。

「殺れアスカ!」
「アデアット!!」

 取り出したカードが輝き、バンショウノツルギに姿を変えた。
 だが。

「なっ、速い!!」

 アーティファクトを出したまではいいが、巨大なバンショウノツルギでは乱理の速度に対応することが出来ずに、敢え無く逃がしてしまった。

「アスカさん!!」
「ボンクラが・・・・・!!」

 二人の罵声(主に夜一)がアスカの身体に刺さる。

「ゴ、ゴメン!!!」
「和泉さんを頼みます!」

 そう刹那は言うと、夜一と共に行ってしまい、あっという間に見えなくなってしまった。

「ハァ・・・・。足引っ張っちゃったよ」

 自分の失態に落胆するアスカ、だか気を落としている暇は無い。
 気絶した亜子を抱えて一目散に保健室へ向かった。

「振り放されるぞ!」

 本体の速度は相当のものだった。
 全力で走る刹那と夜一にも追い付かれることがないのだから。

「フジでも使わねぇ限り無理だな・・・・」

 そう夜一が呟き廊下を曲がると、乱理が生徒に取り憑いた瞬間が目に入った。

「ヨイチ!」
「おっしゃチャンスだ! 俺が本体を引っ張り出すから仕留めろ!!」
「分かった! ・・・・って、アレは」

 刹那も、夜一もその女生徒に見覚えがあった。
 あの長い黒髪は・・・・・。

「あや。どないしたん?」
「お、お嬢様・・・・!!」

 取り憑かれたのは木乃香だった。

「うわぁ〜・・・・・」

 夜一は失笑、刹那は絶句。
 みんな覚えてますよね? 乱理を追い払う方法。

「脳天を殴る?」

 問うように夜一は刹那に聞いた。
 刹那はネズミを狩る鷹のような目で夜一を睨み付けた。
 『お嬢様を殴る? やってみろ。宇宙の神が許しても私は許さんぞ』と、目が語っている。
 『でもどうすんだよ。取り憑かれたまんまじゃ・・・・分かってるだろ?』と、夜一は目で語り返す。

「なー。どーしたん?」

 木乃香は不思議そうに二人に詰め寄る。

「いっ、いえ! 何でもないですよ!」
「そうそう何でもねぇよ、気にすんな気にすんな」

 いびつな笑顔の刹那に対して夜一は極めて自然な笑顔だ。
 それにしても妙だ。
 これまで取り憑かれた人達は豹変するかの如く悪事を働くのに、木乃香にはその傾向が見られない。

(お嬢様には悪い心が無いから?)
(邪心が無い? ハッ! そんな生き物いるわけがねぇ)

 二人が思考を駆け巡らせてる中、木乃香が口を開く。

「あ。せっちゃん首にゴミ付いとるえ」
「え?」
「ウチが取るえ」

 そう言うと木乃香は刹那の首筋に手を延ばす。
 刹那は木乃香に触れられる事に緊張して身体が硬直気味になった。
 嫌な予感が夜一の脳裏によぎった。
 次の瞬間、予感は早くも的中してしまった。

「いた!!? いたたたたた!!!」
「あれ? 取れへんなぁ」

 木乃香が摘んでいるのは刹那の首にあるホクロ。
 そのホクロを取ろうと刹那の首の皮を思い切り抓っていた。

「お嬢様!! 痛いです痛いです痛いです痛いです〜!!!」

 必死で訴えるが、木乃香は手を休めようとはしない。
 むしろ捩りを加えたりとヒートアップしていった。
 だが刹那は振り払おうとも動こうともしない。
 それを見ていた夜一は少々呆れ気味に言う。

「刹那ぁ。もう殴った方が・・・・」
「殴るなと言っただろう!」

 涙目で刹那は夜一に言い、アホか・・・・と夜一は溜息を付いた。

「う〜ん。取れへんわ」

 諦めが付いたのか木乃香は刹那の首を放した。
 木乃香に抓られた部分が真っ赤になっている。
 余程痛かったのか、刹那は赤くなった部分を押さえ肩で息をしている。

「タチわりぃな〜・・・・」

 いつもと変わらないところがミソだ。

「ウチそろそろ行かんと、ほなな〜」

 木乃香は回れ右をしてその場を後にしようとした。

「おい刹那・・・・!!」

 半分怒りを込めて刹那を呼ぶ夜一、だが、刹那は動けなかった。
 お嬢様を殴れる訳が無い。
 だがこのままではお嬢様は・・・・・。
 その時、廊下の向こう側が何やら騒がしくなってきた。
 二人が目を凝らすと、向こうから大勢の女生徒が迫って来た。
 何やら小さな白い生き物を追い掛けているようだ。

「待てこのエロネズミー!!!」
「今日という今日は捕まえてやるー!!!」

 鬼気迫る形相で女生徒達は白い生き物を追い掛けてる。

「・・・・アレ?」

 夜一は白い生き物に目をやった。
 女性用の下着をくわえたネズミは一目散にこちらへやってきた。
 ネズミではない。

「カモさん?」

 エロオコジョのカモだった。

「旦那〜! どいてくれ〜!」

 白い矢の如く廊下を駆け抜けるカモは跳躍し、木乃香の頭を足場にして夜一達を跳び越した。
 それが『一撃』にカウントされたらしい。
 木乃香の頭から乱理の本体が飛び出した。
 『グッジョブ!!』と夜一はカモに親指を立て、刹那は本体を仕留めようとするが。

「どいて〜!!!」

 カモを追い掛ける女生徒達の波に呑まれて動けず仕舞い、結局逃してしまった。

「木乃香は任せろ。乱理を追え!」
「分かった!」

 夜一に木乃香を任せ、刹那は再度乱理を追い掛けた。

(こんな事、いつまでも続けてられない。次で決めないと・・・・)

 乱理が誰かに取り憑き、それを開放し、逃がす。
 何度もこれの繰り返しだ。
 これ以上被害を広げるわけにはいかない。
 そう思った矢先、乱理が誰かに取り憑いた。
 後ろ姿からすると、女教師。
 またも見覚えがある容姿だった。

「刀子さん!」

 取り憑かれたのは刹那が剣術を教わったこともある神鳴流剣士の葛葉刀子だ。
 刹那が刀子の前に回り込むと、刀子はキッと刹那に睨む。
 刹那は気圧されるように後ずさる。

「刹那・・・・あなた、よく白髪の男と一緒にいるわね?」
「ヨイチ・・・・の、事ですか?」

 恐る恐る刹那は聞き返す。

「彼・・・・あなたの彼氏なの?」
「えぇ!?」
「答えなさい」

 まるで尋問を受けている気分になった。
 何より刀子の威圧感が尋常じゃない。

「彼氏とか・・・・そういう関係では・・・・」

 顔を赤くして恥じらう刹那を見て何を思ったのか、刀子は刹那を押し倒し、上に乗った。
 いわゆるマウントポジションというヤツだ。

「嘘付きなさい彼氏なんでしょ? 分かってるのよ彼氏なんでしょ?」

 呪われているようにぶつくさ呟く刀子。

「ちょ・・・・やっ、止めて下さい!!」

 必死でもがく刹那だが、刀子は離れようとしない。

「許せない・・・・私を差し置いて彼氏を作るなんて・・・・!!」

 刹那は泣きそうになる。
 違うと言っているのに聞こうとしない。
 乱理のせいで暴走しているのだろう、刀子は怒りと哀しみが入り混じる切な気な顔になっていた。

「汚してやる汚してやる汚してやる汚してやる!!!」

 そこへ亜子を保健室に連れていったアスカが偶然通り掛かった。
「刹那!? え? 何やってるの!?」

 普通なら、いきなりこんな状況に遭遇しても理解出来る筈がない。
「あぁっ、アスカさん助けて下さいぃ〜!!」

 刹那が必死でアスカに手を延ばす。
 アスカは状況を理解した。

「乱理・・・・!! 刹那を放せ!!!」

 アスカが乱理を引っ張り出そうと詰め寄ると。
「うっ!」

 アスカは足を止めた。
「身体が・・・・!!」

 辺りを見回すと、アスカの周りには小さな札が貼られていた。
 金縛りの結界が展開されていた。

「しまった!」
「アスカさん!!!」

 刀子が再び刹那を見る。
 刹那の恐怖がピークに達した。
 犯される、貞操の危機だ。

「た・・・・」

 刹那は恐怖を吐き出すように叫んだ。

「助けてーーー!!!」  
「何女同士で繰り広げてんだよ」

 夜一は風の様に駆け付け、刀子の頭部に飛び蹴りをかました。

「ふぎゃ!!」

 刀子の頭から乱理が飛び出した。
 夜一はそれを待っていたかのようにゴウゴンを振り下ろした。
 刃は確かに乱理を捕らえたが、致命傷には至らず再び乱理は逃げてしまった。
 乱理が逃げていったのは学園長室だ。
 最後の最後に学園長かぁ。と夜一が気怠そうに頭を掻く。

「よお刹那。随分女らしい声出すじゃねぇか」

 嫌味を言ったが、返答は無い。
 犯される一歩手前にまで到達していたので放心状態に陥っていた。
 夜一それを見て苦笑いし、アスカの方へ向き、金縛りの札を剥がしアスカは自由になった。

「ゴメン、また足引っ張っちゃって・・・・」
「『また』?」

 神妙な赴きでアスカは夜一に言うが、夜一は真顔で聞き返した。

「亜子の時・・・・逃がしちゃって」
「気にすんなよ。何度か見ただけで乱理の速度に対応出来るヤツなんか、そういないし」
「・・・・そうなの?」

 殴られるんじゃないかと心配していたが、予想外の返答に一安心したアスカ。

「アスカが対応出来るなんざ思ってもなかったしな」
「あ、言ったな?」

 余計な一言が夜一らしい。
 素直じゃないんだから。

「おし、じゃあ行くか」
「え? 刹那達ほっといていいの?」
「亜子や木乃香とは違ってヤワじゃないから大丈夫だろうよ」

 それを聞くとアスカは苦笑いをした。
 それから二人は学園長室に入る。
 出入口は一つのみなので、学園長が逃げることも無い。
 ここで決着を着けなければ。

 そこで学園長が黙々と何か書類を書いていた。

「おぉ。終わったかのう?」
「あぁ終わるさ。たった今な」

 ゴウゴンを学園長に向ける夜一。
 アスカもバンショウノツルギを召喚し、構えた。

「待っとくれい。今新しい校則を決めとるんじゃ」

 得物を向けられても学園長は平然としている。

「新校則その@ 男子生徒、教師は丸坊主。女子生徒、教師は三編みのみ そのA  校則違反者は校舎掃除 どうじゃ? 素晴らしい校則じゃろう?」

 戦前の学校のような校則だ。

「そっ、そんな校則、認められる訳無いじゃないですか」
「今時そんな軍隊みたいな規則、PTAが黙っちゃいねぇよ」
「抜かりは無いわい。ワシの邪魔をするというなら・・・・」

 発言の途中で学園長は消えた。
 否、二人の背後に高速で回り込んでいた。

「容赦せんぞい!!」

 学園長は夜一に殴り掛かった。
 夜一はそれを後ろに退き、かわすが第二撃が放たれていた。

「ヨイチ!」

 二撃目は割って入ったアスカに防がれた。
 だが学園長は休む間もなく夜一に攻撃を仕掛けた。

「がっ!!!」

 まるで早送りしているかのような速度で仕掛けられる猛襲を夜一は完全に対応する事が出来ず、全身に拳や蹴りを浴び、倒れ込んだ。

「ヨイチ!!」

 今度はアスカに向かって猛襲を仕掛けた。

(速い!・・・・けど反応出来ない速さじゃ無い!)

 連撃を次々とかわし、バンショウノツルギで防ぎ、好機を伺うアスカ。

(見えた!)

 アスカはすかさずゲートで学園長の背後に回り、バンショウノツルギの腹を学園長の頭部に向けて振り下ろした。

「ふん!」

 学園長はそれを見逃さなかった。
 真後ろからの一降りを片手で受け止められた。
 隙をついた学園長は神速の蹴りをアスカの腹部に叩き込んだ。

「ぐあっ!!!」

 吐き出すように声を放ち、アスカは壁に叩き付けられた。

(強い・・・・!)

 流石は学園最強の魔法使い。
 玄人の部類に入る二人を相手にしても全く引けを取らない。

「ワシに勝とうなど十年早いわい!」
「十年? 結構早く追いつけるんだな」

 いつの間にか学園長の後ろに夜一が。 ゴウゴンを振り下ろす直前だった。

「ぬぅ!?」

 ガン!!! と硬いもの同士がぶつかる音がし、学園長から乱理が飛び出した。
 刀子の件で、乱理は傷付いて速度が落ちている。
 仕留めるなら今だ。
 傷が癒えてしまうとまた繰り返してしまう。

「くそっ!」

 だが夜一の方も満身創痍だった。
 懸命にゴウゴンを振るうが掠りもしない。
 逃げられる。夜一がそう思った瞬間だった。

「!!!」

 夜一の視界に突如入った白い大剣は、まるで矢の様に乱理目掛け一直線に飛び。

「ギィィィ!!!」

 乱理を貫いても尚、勢いは落ちず、そのまま壁に深々と刺さった。
 重量感のある音が学園長室に響き、乱理は爆発霧散した。
 呆気に取られた夜一は後ろを向く。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・」

 そこには肩で息をし、バンショウノツルギを投げたからだろう、右手を延ばしたアスカがいた。

「間に合った・・・・!」

 そう漏らすとアスカは大の字で倒れた。
 夜一はアスカに歩み寄り、手を差し延べる。

「いいとこ取りか、コノヤロウ」
「へへ。取られる方が悪いんだよ」

 刺のある返答を返し、夜一の手を握るアスカ。

「ハッ! 道理だな」

 そう言うと夜一は手を吊り上げ、アスカを起こした。
 その後、事件は一見落着し、放課後二人は学園長室に呼び出された。

「いやはや。迷惑を掛けてすまなんだわい」

 深々と学園長は二人に頭を下げた。

「ホントですよ。蹴られたお腹痛かったんですよ?」
「自己管理位しっかりやってくれよ。あんたが捕まえてりゃ、そこで終わってたんだからよ」
「実は居眠りをしとったんじゃ」

 呆れて二人は溜め息をつく。

「では、報酬は振り込んでおくぞい。夜一君には明日直接渡そう」

 こうして、事件は幕を下ろした。
 多分、今日は人生で1番長い昼休みを経験しただろう。
 妖怪退治も楽じゃないなぁ。 
 学園長室を後にして夜一と共に、夕日に染まる渡り廊下を歩いていった。

「報酬三割よこせよ」
「えぇ!? なんで?」
「手伝ってやったじゃん」



いきなりこんな文が『十六夜の月』に現れて驚きでしょう。 ぶっちゃけ僕も驚きです。
 ネギま!の小説を書こうと決心したのも数年前、ここの小説を見たときでした。
 まさかここに僕の小説が乗ろうとは・・・・神楽坂飛鳥を動かせるとは! まだ駆け出しで、一年も経っておりませんがサイトをやっています。
 気が向いていただければ、そちらにもお立ち寄り下さい『白夜桜』って名前です。 
 最後に、読んでいただいて誠にありがとうございました。
村正虎徹


…と、いうわけです。
村正虎徹さまより以前からBBSにて話題に上がっていたコラボ小説をいただきました。
メッセージまで頂き、私も頂いた後に慌てて途中だったコラボを書き上げてました。
・・・
お互いにコラボは初めてだったので、色々と勝手がわからない部分がありました。
ただ書くだけじゃなくて、相手のサイトさまの小説を読みに行ったりとかもしないとキャラクターがつかめないとか。
人のキャラを動かすということの難しさが、今回理解できたかなと思います。
ぜひ、また機会がありましたら一緒にやりましょう!

……刀子さん登場とか、ステキすぎです(爆。
虎徹さま、ありがとうございました!!




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