『士郎、先に行ってくれ』

そんな無理を言って、青年は独りで残った。

ここは、冬木にただ一つある教会。
およそ闘争に似つかわしくない、信徒がサクラメントの七式を行うとされる場所。
告解し悔悛するべきその場所で行われるのは、街の住人に知られる事の無い戦争の一角。

如月の風はまだ冷たい。普通ならば身震いしそうな風だが、それを意に介さずに青年は佇む。
その視線は見送った友人を見届けておらず、目の前に佇む赤い男にだけ、それは注がれている。

「・・・・・何のつもりかな、ブレーカー」

ぽつり、と赤い男が青年―――ブレーカーに訊く。

「何のつもりって?」
「そうだ、君があの男を庇い立てする義理は無いだろう。
むしろ、マスターであるあの男を殺すべきなのではないかな?」

赤い男は悠然と語る。それは、どこか自嘲が含まれる様な口調だ。

「俺が士郎を?馬鹿な事を言うな、アーチャー。俺はマスターに彼を守れと言われた。
それに何より―――」

そう言いながら彼は自分の腰に差してある刀の鯉口(こいくち)を切り、

「友人を殺そうとしている奴を見逃せる訳が無いだろう?」

抜き払った刀の切っ先を赤い男―――アーチャーに向けた。

「・・・・・・矢張り、君とは戦わなくてはならないか。
―――いいだろう、立ちはだかるのならば駆逐する」

アーチャーの手に双剣が握られる。

周囲に殺気が満ちる。常人ならばその場に居るだけで緊張を超えた精神状態から一気に恐慌に陥るだろう。

「駆逐、か。
アーチャー、君との殺し合いは本意じゃないけど―――止めさせてもらう」

言いながら、ブレーカーは刀を己の腰の高さにまで下げ、疾走った。

刹那に鳴る剣戟。

「――――っ!」

一瞬、アーチャーはたじろぐ。

当然だ。

ブレーカーと言う謎の多いクラスだが、刀を持つ英霊がランサーやライダーに匹敵する速力を有していたのだから。
他の弓兵ならばその一刀に伏していただろうが、彼には鷹のそれに匹敵する“千里眼”と呼ばれる視力を持つ。それにより微かなブレーカーの像を捉えたのだ。

そしてその逡巡の間にアーチャーは直ぐに認識を改める。

彼の動きは不可視に近い、と。

間も無く繰り出される刃。
斬撃なのは彼には幸いだろう、点ではなく線ならば余裕を持って―――余裕と言ってもコンマ数秒程度だが―――捌く事が出来る。

二合目が響く。

アーチャーの肩を狙い振り下ろされた刃は彼の双剣に流される。
大きく踏み込み袈裟に空を斬ったブレーカーの背には大きな隙ができる。
それをアーチャーは見逃さず陽剣干将を振り下ろす、がブレーカーは勢いを止めず己の背面に刀を水平に揮った。

三合目の剣戟はアーチャーの黒い陽剣が弾き飛ぶ音。

ブレーカーは即座に体勢を直し、突きを放つ。それは後に跳んでいた弓兵の左腕を掠めた。

「――――っ、・・・・・・・何故、急所を狙わない」

ブレーカーと間合いを取ったアーチャーが訊いた。

「何故って、止めると言っただろう?」

問われたブレーカーは何の気も無しに殺し合いの相手にそんな事を言う。
それをアーチャーは厳しい顔で受け止める。

「―――ふん。そんな事で本当に止められると思っているのか?
剣技では矢張り叶わない様だが、私のクラスを忘れたかブレーカー。

―――君は、私に距離を取らせては、いけなかった」

弓兵の姿が消え、それと伴に気配も一瞬で遥かに遠のく。
その姿は教会の上に、その手には何時(いつ)の間にか弓が握られている。
ブレーカーはその姿を捉え、己の刀の届く範囲外の相手を視認する。

「本領発揮か―――アーチャー」
「そうだ。私は弓を射る者(アーチャー)。君と戦うのに白兵戦は余りに無謀だ。
私は、私にできる戦いをさせてもらう」

言って、弓兵は腕に力を込め、鏃(やじり)を放つ。
その数は三本。
その悉くが、破壊の英霊の急所を穿たんとする必殺の意思の体現。
それは青銀の光を放ち、高速で地へと向かう。

「―――――っ!!」

放たれた間を、刀を鞘に納めブレーカーは回避に徹し、走り抜ける。その背後で三本の矢が地に突き刺さる。
だが、それを弓兵が想定していない訳が無い、退路を塞ぐ次弾は既に放たれている。

「・・・・・・・・、――――っ!」

しかし、弓兵の相手は刀の扱いに長けた“破壊”の英霊。

―――当然、矢を墜(お)とす手段など心得ている。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

走り抜けた後、柄を握り神速で抜き払う。その速さと体内で練り上げられた気により刃を飛ばす“居合い切り”。
それは鏃を捌き、その背後に佇む射手への軌跡をなぞる。

「――――チッ」

不快気に舌打ちし、アーチャーは斬り落とされる教会を背後に跳ぶ。
その大きな隙を、ブレーカーは見逃さない。

「――――ハッ!!」

足に練り溜めた気を開放し、跳躍する。その到達点には弓兵。
ブレーカーは腰に構えた刀を一気に振り抜ける。
迎え撃つ弓兵の手には、何時の間にか弓の代わりに握られている螺旋剣。

一際大きい剣戟が響き、螺旋剣を持つ腕を押さえたアーチャーと、そこから離れた位置にブレーカーが着地する。

「ふぅ、流石だな。例外的(イレギュラー)なサーヴァントと言え、まともに召喚されていたのなら君はセイバーに該当していた英霊だろう」

アーチャーは血の流れる己の腕を見ながら感嘆する。
その言葉をブレーカーは苦笑しながら否定する。

「俺がセイバー?止してくれ、俺に騎士(セイバー)なんか向いてない。
この身は破壊による守護の為にある―――故に破壊者(ブレーカー)だ」
「成る程、それが君の理想か。
あの男や私の様に、歪でない見事な理想だ」
「何を言うんだアーチャー。君は理想を叶えたんだろう?誰も悲しませない様に、悲しむ人を救う正義の味方になれたんだろう・・・・・・?
それは、そんな・・・・・歪なんかじゃない!」

ブレーカーは訴える。
目前の男が、自身をどの様に思っているのかを解っていながらその言葉を口にする。

「・・・・・・・それだ、ブレーカー。だからオレ(・・)と君は―――永遠、相容れないんだ」

それを、アーチャーは、昏(くら)い羨望の目で見つめていた。

「ブレーカー、オレはあいつを殺す。その為に邪魔をするものも排除する。
―――故に私は、容赦を棄てる」

己の敵を睨むアーチャーの手に再び弓が握られ、後へ跳躍しながらその手に持つ“剣”を弓にあてがい“矢”と成す。

「――――I am(我が骨子) the bone of(は捩じれ) my sword(狂う。).」

その声と伴に、矢は全てを捻じ切り穿つ力を蓄えていく。

「――――!」

不味い、と彼は直ぐに脅威を感じ取った。

己の刀だけでは防げない―――否、受ける身体の方が保たない、と。

「――――“世界を切り絶つ鋭き風(絶風)”!!」

即座に唱えられる真名。
ブレーカーの刀に黄の光帯が現れ回転を始め、彼はそれを地面に突き刺した。

「“守護の大地(第一開放)”!!」

瞬間、轟音と伴に大地は彼に従う。
浮かび上がる魔法陣、矢羽の様な抽象的な絵が描かれているそれはブレーカーの居る中心に集束される。

それを確かに見越して、

「――――“偽・螺旋剣(カラドボルグ)”」

アーチャーは指から矢を放った。

矢は徹る場、全てに在るものを捻じ切りながら進んでいく。
そして、その先、敵を貫かんとする矢は、

大地に阻まれた。

隆起する大地は人の手が加えられ舗装されたそれを無視し巨大な壁となる。

「それが君の宝具か。
地を従えるとは大した力だが、それだけでは足りぬ」

アーチャーの言う通り、矢は壁を物ともせずに突き進む。

当然だ。あの螺旋剣は空間すらも捻じ切る。
何の力も持たぬ地だけでどうして防ぐ事ができようか――――!!

しかし、

「――――承知しているよ、アーチャー。
ほんの少し、勢いが死ねばそれで充分だ」

その先に居るのは破壊者。

少しでも勢いの死んだ矢を打倒するには不足無い――――!!!!

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

壁を貫通した矢を迎え撃つ刃。
迸る火花、甲高い金属音が連続で響く。空間すら捩じ切る矢は一振りの刀に喰い止められている。
その主を守るは異世界の魔剣鍛冶師に鍛えられた刀。歴戦を潜り抜け、幾度無く主を守り勝利に導いたそれは、決して折れる事など無い――――!!

「―――ぁぁぁぁぁっ、らあぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・!!!!」

腕と刀に満身の気を込め、裂帛の気合と伴に振りぬかれる刀。
一際高い音が響き火花は最早、目も開けられぬ光となり辺りを覆い、

それで、矢は砕かれた。

「――――はっ、――――はっ、――――はぁ」

壁は崩れ、残ったものはブレーカーの乱れた呼吸と、
双剣を握り悠然と歩いてくるアーチャー。

「・・・・・・・満身創痍と言ったところか。
どうする、続けるかブレーカー?」
「余り・・・・・嘗めるなアーチャー。まだ、魔力を消費しただけだ。
この身は・・・・・まだ戦える」

ギリギリのところで鏃に打ち勝った為か、誰が見ても疲労困憊した様子のブレーカー。

それを冷めた目で見たアーチャーは、

「そうか、ならば―――命はここに捨て置け」

最後通告染みた言葉と伴に刃を振り下ろした。

その刹那。





“―――ったく。ハッタリの使い方がなってねえよ”





「え?」

驚愕するブレーカー。
それは目前の死など無視している。

“弓兵にバレバレじゃねぇか。ちょっと休んでろ。その間、俺が見本と力を見せてやる”

聞こえる筈の無い声が聞こえた、それだけに彼の意識は向いている。

「――――――へっ。
油断しすぎだぜ、アーチャー?」

そんな嘲笑を含んだ声と、突如バランスの崩れるアーチャー。
満身創痍だったブレーカーにより足を払われたのだ。

「ぬっ!」

アーチャーは体勢を立て直しつつブレーカーから離れ、即座に目前の敵を凝視する。

「吃驚仰天、って感じの顔だな。
でもな、まだまだ驚いてもらうぜ?」

軽口を叩く目前の敵。
それは先程までとは大きく異なる。

そして、彼は自身の力を解放した。

巻き起こり、全てを吹き飛ばす烈風―――否、それは風ではない嵐(ラン)。
全てを巻き込む大嵐(タイラン)。その中心の目には、

「はっ!!どうだ、アーチャー!!俺にはな、魔力に量なんて概念必要無ぇんだよ!!」

蒼き篭手を着けた、その力の主が居た。

「―――――馬鹿な。
聖杯に匹敵する魔力だと・・・・・・?」

愕然とするアーチャー。

無理もない。目の前の奔流は正に底無し。
共界線(クリプス)と呼ばれる場から無尽蔵に魔力を引き出すなど、誰が想像できようか。

「呆(ぼ)けっとしている時間はやらねぇぞ!!」

それとは逆に、居合い切りにより刃を飛ばすブレーカー。

「くっ!!」

それを双剣で捌きながら下がるアーチャー。
魔力の奔流に近づく事を危険と感じたのか、弓を携え教会の裏の森の中に消えた。

「あんだよ、そこで逃げんのかよ・・・・・・・・」
(ま、それが一番助かるけどな)

鷹の目に唇を読まれる恐れがあるので心にも無い事を言うブレーカー。

これが彼のハッタリである。
相手に事情を知らせぬ驚異は脅威となる。
自身に膨大な魔力が使えぬと悟られぬ限りの脅しだ。

「・・・・・・・・・・・――――――!」

ブレーカーに襲い掛かる青銀の光。
森の中から撃ち出された鏃。それは恐らく森林の上での正確無比な狙撃。

「チッ、ムカつく攻撃だな――――!!」

それをブレーカーは臆する事無く迎え撃った。









教会裏の森林。
教会から遠く放れた一本の木の上に赤い男の姿がある。

「・・・・・・・・・避けられたか、ならば次だ」

不快気に言う赤い男の鷹の目には、遥か遠くに居る刀を持つ青年が映っている。

「――――I am(我が) the bone(身は) of my sword(燃え穿つ).」

己に対する暗示と伴にその裡(うち)から出ずる鏃の魔剣。

それは手にした主を必ず勝利に導いたとされる、光 炎 不敗 必中と数々の名を冠した剣。
それは敵を射殺さんとする必中必殺の意思。
魔力を込めてゆき、何ものよりも速く、尚速くせんとする。
弦を限界まで引絞り、その右腕も限度を越える手前まで力を込められ、

「――――“必中不敗の光(クラウ・ソラス)”」

矢は放たれた。









「・・・・・・・・先刻の比にならないのが来るな」

教会の近く、己に死の可能性が近づきつつあると解っていながらも落ち着き払った青年。

「やっぱり、俺が出ておいて正解だったな。
お前じゃあ、あれは防げなかったぜ?」

彼は口元を上げ、軽口を叩く。
誰も居ない場所で静かに誰かに語る青年―――ブレーカーは、自らに襲い来る死を防ぐと明言した。

「毎回あの捻じれ棒を防ぐ時みたいな方法を取ってたら身体が保たないだろ、馬鹿が。
いいか、見てろよ相棒―――お前に刻まれた(・・・・・・・)力を思い出せ」

ブレーカーは矢が放たれた事を感じ取る。
そして己の腕の篭手を静かに突き出し、

「“―――――残らせる蒼”」

真名を口にした。
展開される盾。
彼方から迫る赤光(しゃっこう)を遮断し、主を守る。

激突する赤と蒼。

赤は周囲の全てを燃やす程の熱量をその小さな鏃に込め、前方を貫かんとする。
蒼は主の経験を以て意思の強さを現し、遮断に全てを費やす強き盾を成す。
その衝突により周囲に霧散していくエネルギーはそれだけで地を焦がしていく。
それは鏃の力が防がれ浪費されている事を示し、盾の力が何よりも揺るぎ無い事を物語っている。

「――――――は、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・!!!」

ブレーカーが更に魔力を込め追い討ちを掛ける。

しかし、鏃が破られる刹那。
遠く、佇む弓兵は、


――――――――“壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)”


自身も追い討ちの一手を打った。

それで、音が消え、色も消えた。

巨大な爆発により一帯は炎上し、地は抉られ、その欠片は周囲に飛び散る。
閃光により視界は塗り潰され、聴覚は殺される。残るのは大気から感じる熱と焦げる匂いのみ。
それは小型ミサイルを撃ち込んだかの様な大破壊、常人ならば跡も形も残らない力の暴虐。

その中で、

「凄いな、これは確かに君が出ていなかったら危なかった。
お蔭で思い出したよ、俺の力を―――有り難う、礼を言うよ。相棒」

辺りを目で確認し、己の掌を握り締めながら、
何事も無かった様に、ブレーカーは佇んでいた。

「さて。往くぞ、アーチャー」

言って、体勢を低くし力を溜める。
クラウチングスタイルにも似たその姿勢でブレーカーは足にのみ全ての気を集中させる。

「――――鏃の準備は、済んだかな」

一瞬。
それでその場からブレーカーの姿は掻き消えた。

「――――!」

当然、そこまでの様子は鷹の目には視えている。その唇の動きから相手の言も判っている。

だが、しかし、それ以上は追えぬ。

ブレーカーは森林の中に居る。姿を捕捉するには障害物が多過ぎる。
そして何より、彼は速過ぎた。
特に何をする訳でも無く、ただ彼は疾走っている。
最早、不可視の領域に近づきつつあるのではなく、不可視。
森の中を木々の間を駆け抜け、速く 速く 速く、一本の木の許へ。
それが速過ぎるのだ。

「――――――、っ!」

忌々しげに舌打ちをするアーチャー。その間にもブレーカーは近づいて来る―――否、到達した。

「アーチャー、捉えたぞ」

弓兵の直ぐ下には破壊者。

その姿を視認し、何と絶好な位置か、と弓兵は口を歪ませる。
弓兵には今、重力と言う味方がついた。下から迫る者と上に立つ者の間の、絶対的な直線。
それは些細な事、だが故にそれが致命となる。
そして更にアーチャーは完璧を期す為に己の中で最強に属する矢を放つ。
これで打倒できずして何が弓の英霊か。

「――――I am the(体は) bone(剣で) of my(出来ている) sword.」

必殺の意思で造られるは、英霊ヘラクレスが最も信頼したと言われる宝具。
過去に幾度と無く蘇生をする九頭の大蛇を殲滅した弓矢。
九つの鏃を同時に放ち相手を打ち抜かんとする。

脹脛 上腕 鎖骨 喉笛 脳天 鳩尾 肋骨 睾丸 大腿

九つに狙いを付け撃鉄は引き起こされ、
撃ち出されるそれは、

「――――“射殺す百頭(ナインライブズ)”」

神速の弓矢――――!!

ブレーカーに襲い来る九つの大剣。

それを意にも介さず。

「アーチャー。それは、無駄だ」

先程と同じ様に静かに腕を突き出し、

「“唯一つ生を残らせる蒼(サバイバー)”――――!!!!」

再び真名を唱えた。

その腕には経験を具現する篭手。
そこから一枚の蒼い盾が現れる。

その相手は大英雄の弓矢。
上下で激突し絶殺による滅絶を望む鏃は、重い衝撃を残し、更にその上をいく衝撃を加えていく。
ただの一枚の盾で防ぐ事は叶わぬ。
その身ごと貫かれ原型を消されるだけだ。

「もっと、もっとだ・・・・・・何よりも強い不破の盾を―――!!」

そう、ただの盾では。

ブレーカーの目前に展開されるのは意思の強さに比例して強固になる盾、それは襲い来る悉くを凌駕し打倒する。
異世界に召喚された少年が度重なる死線を潜り抜け、強くなっていき青年へと成長していった、その全てを宿す篭手。

そして何よりも、

“―――そうだ、相棒。それが、俺でありお前の力だ”

何物にも変えがたい自身と再び見えた彼を、今やそれ以上無い程の味方が居る彼を、どうして挫く事ができようか―――――!!

「ああ、そうだな。勝つよ。
――――っ、弾けて、消え失せろ・・・・・・・・・!!!!」

轟音。

その言葉と伴にブレーカーの意思は大英雄に打ち勝った。

微かに残る反響音。残った音も森林に吸収されて霧消していく。
碧の森は一部陥没して地が見えている。
その森の万葉にできたクレーターに二人は佇んでいる。

「真坂、あれが破られるとはな。弓兵としての面子は全て潰されたな」

アーチャーは自身の渾身の一撃が破られた事を無感動に受け止める。

「・・・・・・・・アーチャー。退いては、くれないか」

ブレーカーはそれ以上の言葉も無く訴える。

「断る。私は君に勝てそうには無いが
――――この世界を敵にして、君は勝てるか」




“I am the(体は) bone(剣で) of my(出来ている) sword.”




「アーチャー!!もう止めろ、君が士郎を殺す必要なんて無いだろう?!」




“Steel is my(血潮は) body(鉄で), and fire(心は) is my(硝子) blood.”


“I have created over(幾度の戦場を越えて不敗) a thousand blades.”




「必要の有無は最早関係無い」

「だったら、何故!!」




“Unknown to Death(ただの一度も敗走はなく、).Nor known to Life(ただの一度も理解されない).”


“Have withstood pain(彼の者は常に独り) to create many(剣の丘で勝利に酔う) weapons.”




「何故だと?そんなものは明瞭だ」




“Yet, those(故に、) hands will never hold(生涯に意味はなく) anything.”




「――――オレは、どうしようもなくあいつが嫌いなだけさ」




“So as I pray(その体は), unlimited blade works(きっと剣で出来ていた).”





奔る炎。
それは境界か、世界は捲り返される。
決して森を焼く事は無いが、代わりに塗り潰す炎の色。

――――その一瞬で世界は変動した。

「これ、が・・・・・・・・」

当惑するのはブレーカー。
それは刹那の世界の変動に対してではなく、その世界の風景に対して。

広大な製鉄場。

欠ければ動かなくなる巨大な歯車が虚空で動き続け、その地に剣を廃棄していく。
廃棄された全ての剣は決して主を持ちえぬ名剣、魔剣。
武具以外の住人の居住を赦さぬそこで、この世界の赤銅の主は佇む。

「これが、オレが唯一持ち得た世界だ。
行くぞ、破壊者―――この世界の破壊は可能か」

その問は目の前の青年へ。
弓兵が過去に、記憶には無いが今も鮮明に激烈に残る、確かに感じたであろう憧れ。
その守護の理想を貫いたと言う破壊者へ。
弓兵の腕が上がる。それに従いこの地の住人が宙空に浮かび狙いを定める。
その夥しい数は、最早数える事は無粋。
全てが独りの男を打倒する為だけに揮われる。

「・・・・・・・俺は破壊の守護者だ―――必要とあらば全て凌駕する」

それを見据えるブレーカーは刀を天に掲げ、目を瞑り急速に己の中に埋没する。
その内では集中し集束される気。父に教わったイメージを頭の中で反芻する。

(――――気を練る。兎に角練る。どんどん練る)

己に現存する―――否、捻り出せる全てを気に換えて一つの形を成していく。
それは天を刺(さ)し示す牙。

「――――天を穿つ、一子相伝の剣・・・・・・」

呟きながら目を開き、前を見る。
周りの凶刃など視界に映っていない。その目が捉えるのは赤い騎士の姿のみ。

撃鉄を落とす様に躊躇い無く落ちる腕。
撃ち出されるのは世界の剣。
そして、迎え撃つのは、

「天牙穿衝―――――――――!!!!」

天を衝き穿つ牙――――!!

その牙は不可視。
何物にも左右されぬ揺ぎ無く全てを薙ぎ倒す。
その実、それはただの斬撃である。ただ一つ、巨大と言う点を除いて。

聖剣にも匹敵する殲滅剣技。
剣技である故に人の身で限界まで練り上げられた技であり、限り無く非凡に近いが、断じてそうではない、愚直な剣の窮み。

詰まり、究極の一である。

幾ら名剣、魔剣を集めた所で、所詮担い手の居ない剣。
何故に究極の一に勝つ事ができようか。
全ての剣を弾き飛ばす牙。
その歯牙は赤い騎士に掛けられようとしている。

「――――――――――っ!」

そこで赤い騎士は己の消滅を覚悟した。









「・・・・・・・・・・何故だ」
「何故って・・・・・・何が?」

ここは教会の裏に大きく開いた森のクレーター。
互いに向き合う形でそれぞれ、彼らは木に背を預け座り込んでいる。
そこで怪訝そうにアーチャーはブレーカーを問いただす。

「あの時、君は私を消す事が出来た筈だ」
「あぁ、それは。
最後の一撃が、後先考えてなかったから、かな」

ブレーカーは苦笑する。

「気を注ぎ過ぎてさ、振り切る力が残らなかったんだよ」

それを聞きアーチャーは一瞬瞠目する。

「・・・・・・・・・そうか。では、私の完敗か。
君が最初に言った様に止められてしまった」
「じゃあ、士郎の事を狙うのは―――」
「そう言う事ではない。
時間切れ、だ。もう直に現界が不可能になる」

それを聞いたブレーカーは戸惑いの色を見せる。

「―――――っ」
「そんな顔をするな、君のせいではない。私が勝手にした事だ」
「・・・・・・・・・・・・っ、・・・・・・・・・また、会えるといいな」

それは余りにも少ない、否、最早無いであろう可能性。
それを解っていながらもその望みを口にする。

それを、

「――――ふ。その時は、精々君のハッタリに騙されぬ様、気を付けよう」

そんな軽口を残し、ざあ、と吹く風と伴に赤い騎士は消えた。


ブレーカーは独り佇み、開いた空を仰ぐ。

「・・・・・・・・寒いな。早く士郎に追いつかなくちゃな。
ぼやぼやしてるとマスターも心配する。ガンドを撃たれるのはもう勘弁だ」

その今は重いが、自身に確かに残る証である身体を動かして、
ブレーカーは、自身の今在るべき場所へ向かった。


はい、Chronosさまよりいただきました雑記小話よりFate夢です。
小話には出ていない弓兵との攻防でした。
殲滅剣技あり固有結界ありの大盤振る舞いな上に、手に汗握るような戦闘描写がステキすぎる。
さらに裏夢主まで友情出演です。
Chronosさまいわく、「私の妄想の産物」だ、そうですが、本気で連載されればかなりの見ものとなりそうです。
Chronosさま、ありがとうございました!!



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