窓から気持ちのいい風が入ってきて、誰でも清々しい気分になれそうな日。 サイジェントにある自分が世話になっている元孤児院のフラットの自室では寝ていた。 気持ちのいい日なので、気持ちのいい気分で寝られそうな筈なのには、 「う・・・・むむむぅ・・」 うなされていた。 「下町のナ○レオン?」 がばっ、と突如、飛び起きる。 「・・・・・・・・・・何で、い○ちこ・・・・・」 自分の発言にツッコミを入れながら起き上がり、伸びをする。 何だか酷い悪夢を見ていたような気がする。 しかし、夢の内容は現実に戻るのと同時に思い出す前に消えていく。 「・・・下町のナポレ○ンってどんな夢を見てたんだ、俺は」 正直、今の寝言は相当恥ずかしいと思う。 部屋に誰も居なくて良かった。 聞かれていたら(特にナツミやハヤト等に)からかわれる事は間違いない。 「だけど、いい○こか・・・向こうの酒はこっちに来てからは飲めてないな」 リィンバウムの酒は自分が元々居た世界の酒と比べると弱い。 それが不満と言う訳ではないが、やはり強い酒の方がうまい気がする。 飲み勝負でも圧倒的に勝ててしまうし、詰まらないと言えば詰まらないのだ。 以前に一度帰れた時は、その時の仲間だった酒好きの悪魔と一緒に飲んだりしたのが懐かしい。 ※未成年の飲酒は法律で禁じられています。 「まぁ、こっちの酒もあれはあれでうまいからいいか」 そんなことを言いつつ、自室を出る。 ふと、違和感がある。 静か過ぎる。 周りを見渡しても誰も居ないが、だからといってここまで静かなのはおかしい。 リプレが台所に居たり、自室に居る奴らも居るだろう。 しかし、静か過ぎる。 自分が寝ている間に皆何処かに行ったのかと思い、居間に向かう。 静かな居間には異様な物があった。 大きな樽からV字を描いて突き出した足。 要は誰かが樽に頭から突っ込んでいるのである。 そして、その足の主には見覚えがあった。 「・・・・・ガゼル?」 しかし、呼びかけてもピクリともせず当然返事も無い。 中で気を失っているようだ。 一体何故そんな事になっているんだ。 と言うか、 「・・・・・こんな描写がある小説あったな」 「それは横溝正史だね」 「うぉっ!!」 急に誰かに横から話しかけられ驚き、その場から飛び退く。 そして自分に横から話し掛けてきた人物――トウヤを見た。 「何だトウヤか、驚かせないでくれよ――ってその頭どうしたんだ?」 トウヤは頭に包帯を巻いていた。頭に怪我をしているらしい。 「ああ、これかい?これはね、説明すると長くなるから要約するけど」 そう言いながら。トウヤは少し不機嫌そうに、 「怪我をしたんだ」 「見ればわかる」 要約しすぎだ。 「そうじゃなくて、何故君が怪我をしたのかを聞いているんだ」 「今の説明じゃわからなかったかい?仕方が無いな、回想に入ろう」 「何だって?」 回想に入る?どういうことだ? 「ちょっと待」 「問答無用で回想スタート」 サイジェントの外、北部インダリオス。 そこの荒野にトウヤとハヤト、ナツミは来ていた。 その目的は新しいアクセサリが手に入ったので、それを媒介にした新しい誓約を試す事。 街中や自然の多い場所で誓約をすると、高位の召喚術が発動した時に多大な被害が出る為、荒野で試そうという事になったのだ。 それが事の発端。 「じゃあ次、試してみようか」 そう言いつつ、無色のサモナイト石でトウヤは誓約を試みた。 その召喚により出てきたもの。 酒瓶だった。 そしてその召喚により宙空に出てきた酒瓶は、物理法則に従い自由落下しながらトウヤの頭に直撃した。 奇跡的に酒瓶は割れなかったがトウヤの頭は少し割れたらしく、頭から血を流しながらゆっくりとトウヤはダウンした。 その様子を見ていたハヤトとナツミが、 「うわ!!大丈夫かよ!?」 「ト、トウヤ!ちょっと大丈夫!?」 と心配そうに駆け寄り、 「う・・・だ、大丈夫だ」 と答えるトウヤが無事なのを確認し、安心した。 「ところでトウヤ、何を召喚したんだ?」 とハヤトが治療用の召喚術が無いのでナツミに後ろから包帯を巻いてもらっているトウヤに聞いた。 「どうやら、お酒みたいだね。それも僕たちが居た世界の」 「本当かよっ!?そんなものまで召喚できるなんてな・・・」 「うん、何だかすごいわね。で、何のお酒?」 とナツミが目を輝かせながら聞いてくる。 どうやら飲む気は満々らしい。 「ただのビールだね」 ほら、とトウヤは自分の頭に直撃した瓶を見せる。 瓶にはトウヤの返り血が少し付いている様に見えるが、取り敢えず誰も突っ込まない。 「え〜ただのビール〜?まぁ、贅沢は言えないわね」 とナツミは残念そうにしている。 「未成年の飲酒は法律で禁じられているよ、ナツミ」 とトウヤが釘を刺すが、 「いいのよ、ここ日本じゃないんだから」 やはり飲む気は満々だ。 「そうだ!トウヤ、さっき誓約した石、頂戴?」 と何かを思いついたようにナツミがトウヤに要求する。 「何をする気だい?」 「ビールでも量が多ければ満足できるでしょ?だからもっと召喚するの。それにフラットの皆の分も」 「あ、成程。確かにそれだったら無尽蔵に酒を出せるな」 とナツミの考えを聞き、ハヤトは感心している。 「駄目だ。そんなに召喚したら向こう世界の人達がお酒が無くなって困るだろう?」 「え〜良いじゃな〜い、少しぐらい」 「駄目だ」 むー、とナツミは物欲しそうにしている。 そして、 「仕方が無いわね!力づくで行くわ!」 とトウヤの頭を後からサモナイトソードの腹の部分でゴン、と叩いた。 「あ」 とハヤトはトウヤが崩れ落ちる様子を呆然と眺めていた。 「回想終了だね」 「待て待て待て」 何だ今の!? 鮮明な映像で一通りの様子が見れたぞ!? 「細かい事は気にしちゃいけないよ?それより外が大変な事になっているんだ。来てくれないか?」 とトウヤは外に向かっていく。 「ガゼルはいいのか?」 「大丈夫、酔いつぶれただけだから」 そう言ってトウヤは外に行ってしまった。 酔いつぶれた、と言う発言で展開は読めそうだが、 「・・・・・取り敢えず外に行ってみるか」 「やぁ、来たね」 とトウヤが居た外は凄い光景だった。 それはやはり、 「大宴会・・・・・・」 だった。 フラットの面々が外で大宴会を開いているのだ。 ラムダとレイドとイリアスの騎士団組は焼酎を飲んでいる。 ラムダは気分よさそうに酔い、レイドもすっかり酔っていて一番酷いのがイリアスで顔が真っ赤だ。リィンバウムの人にいきなり焼酎はきつかったのではないだろうか。サイサリスは、顔を真っ赤にしたイリアスを心配そうに見ている。 リプレが子供たちがお酒を飲まないようにと見張っているところをアカネは甘酒を見つけ「これなら、子供達が飲んでも平気ですよ」とリプレに勧めながら、自分も甘酒を懐かしそうに飲んでいる。アカネの故郷にも似たようなものがあったのだろうか。 スタウトは十分に酔って、千鳥足であっちこっちの酒を飲みまわっている。あ、倒れて寝た。 セシルとアヤは何やら共通の話題があるらしくお互いに話し込んでいるがやはりその顔は赤い。アヤが酔って「彼は少し鈍すぎるんです!!」とか言っているのにセシルがアドバイスをしている。 ペルゴとローカスは多種多様のワインが気に入ったらしく、色々なワインを楽しんでいる。 キール、カシス、クラレット、ソルの召喚師4人は少しだけビールを飲んだら直ぐに顔を真っ赤にしてふらついてきている。・・・・・兄妹揃ってものすごく酒に弱いんだな。 シオンさんは相当アルコール度数が高いであろうウォッカを平然と飲んでいる。何であれを平気な顔して飲めるんだろうか。 スウォンとカザミネはウィスキーをストレートで飲んでしまったらしく倒れる寸前だ。 エルジンは酔ったエドスに酒を飲まされそうになってエスガルドのところに逃げ込んでいる。あ、エドスがエスガルドにやられた。 カイナはチューハイを、ミモザとギブソンはカクテルをとても満足そうに飲んでいる。結構ジュース感覚で飲んでいるようだ。 「なんでこんな事に・・・・・」 「さっきの回想に出てきた石さ」 とトウヤが答える。 しかし、それでは矛盾が出てくる。 「おかしいだろう、ここにはビール以外の酒があるじゃないか」 「それについてはね、どうやらあの誓約をした召喚術は向こうの世界の"酒"と言う概念に当て嵌まる物なら何でも召喚できるものだったらしいんだ。それこそ世界各国の酒展覧会を開ける程の酒をランダムに、無尽蔵にね。ナツミが僕から奪い取った石でお酒を召喚して宴会を始めてしまったらしいね」 ・・・・・なんだそれは。 何処かの狂嵐の魔公子が泣いて喜びそうな――否、泣かないか。むしろ全力で奪い取りに来そうな召喚術だな、それこそ街一個を潰す勢いで。 「・・・確かに、この宴会は凄まじい問題だな」 「いや、問題は宴会じゃないんだ。こっちに来てくれないか?」 宴会は問題じゃないのか? じゃあ、一体何が問題だと言うのだろうか? 「ここだよ」 「・・・・・うわ」 思わず声に出してしまうほど関わりたくない光景。 「絶対にテテの方が可愛いわよ!!」 「いーや!ポワソの方が可愛いね!!」 ・・・・何、やっているんだあいつらは。 お互い顔を真っ赤にして思い切り酔いながら、テテのいい所とポワソのいい所を主張しまくっているナツミとハヤト。 しかし、一番の問題は、 「何であいつらはサモナイトソードを構えているんだ!!」 べろんべろんに酔った誓約者がお互いの至上の武器であるサモナイトソードを構えている。 誓約者同士がエルゴの力で戦ったりしたら世界の危機だ。 二人の酔っ払いにより破滅に追い込まれるなんて冗談じゃない。 思わずトウヤを睨み付ける。この状況は一体何だ、と。 「・・・・・かいそ」 「回想はもういい」 トウヤが回想に入る前にやめさせる。 「なんでこんな事態になったんだ?言葉で説明してくれ」 「簡単に説明すると。酔ってタガが外れちゃったんだね」 もう、嫌だ、本当に。 本気で島の仲間が恋しくなった。 「それで、俺にどうしろと?」 一応、聞いてみる。 「彼らを止め「無理」 トウヤが言い切る前のこちらが言い切る。 「最後まで聞いてくれたって良いじゃないか」 「無理だ。俺は自ら爆心地になるような事、やりたくない」 「大丈夫。君がここで犠牲になっても、きっと英雄として称えられる筈だから」 「馬鹿言うな。大体君が止めれば良いじゃないか、サモナイトソードに対抗できるのはサモナイトソードだろう?」 そう言うと、トウヤは深刻そうに、 「・・・・・それが無理なんだ」 「どういうことだ?」 トウヤには何かとても深刻な問題があるように見えた。 「実は・・・・・」 どんな問題があるのだろうか? 「ナツミに気絶させられたときにサモナイトソードを荒野に置いてきてしまったんだ」 「馬鹿野郎ーーーーーーーーーーー!!!!」 思い切り叫んだ。 これ以上は無いくらい叫んだ。 そして諦めた。 絶望的な事実を前にして諦めた。 「頼む。樋口さんもダウンしているしもう君しか居ないんだ」 ごめんな、皆。 俺、島に帰れないかもしれない。 「本当に腹、括るしかないのか・・・・・?」 冷や汗をダラダラと掻いて、俺が悩んでいると、 「こうなったら、ユグドラース!!」 ナツミがユグドラースを出してきた。 何でだよ、何でそんな事するんだよ。展開が速過ぎるだろ。 「止めろナツミ!止めろって!!」 「うふふふふふ」 あぁ・・・・駄目だ。 聞こえていない。終わった。 バッドエンド直行便が来た。 ワインでもビールでも焼酎でも何でも良いから最後にせめて酒をどれか飲んでおけば良かった。 ああ、机の上にお酒が置いてあるな、あれは―― 「鬼○し?」 突如飛び起きた。 「・・・・・夢?・・・・・何の?」 は汗びっしょりになっている自分の体を見て、 「・・・・・・・酷い夢だった気がする」 そういっては伸びをして自室を出て、その後樽に入ったガゼルを目撃する。 |
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