Down Down For?
世界と世界の狭間、その何所かに在るとされる隠された扉、扉の向こうには『 』とも『アカシックレコード』とも呼ばれる様々な世界の真理が在るとされる。
だが開いた者は居るかさえ分からない。
何せソコへ到りし者が扉を開き、『真理』を知ると同時に自らが住みし世界は崩壊する、故に世界は『真理』に到る術を見つけようとした者、見つけた者は世界やその意志の具現者によって命を絶たれる。
それが原因で滅びし町が、国があり、廃れた文化もある。
『真理』を求めぬ者がその場に辿り着けるのはどんな偶然か、いや、それは既に必然、運命と呼ばれるであろう。
その『真理』への扉に世界より零れ落ちし一人の青年。
そうこの話しは世界より零れ落ちし青年と『真理』と名乗る者の物語である。
「うん、初めての経験かな?」
若者がそう呟いた、その若者は黒い髪、黒い瞳、肌は透き通るような白い肌、中性的な男性がその場にいた。
その場は何も無いがどこか圧迫感の在るような、無いような、清々しさが在るような、無いような、如何なる感じも醸し出す。
「う〜ん、それも落ちてくる、これも初めての経験。
それも『真理』を求める以外で、それから世界から零れ落ちて辿り着いた存在も本当に初めてだ。
どんな偶然があるのだろうか?
いや、此処までの偶然はもはや必然だね、運命といって差支えもしない」
誰かに聞かせるよう独り言を紡ぎ成す。
紡ぎ終えると同時に何もなかった空間に扉が現れる、それも若者の上の方ではなく横の方に。
そして扉は開かれる、飛び出してくるのは刀を携えた青年、青年に加わる力が突如として失われ青年はその場に座り込む。
そしてそれを見ていた若者が青年に声をかける。
「はじめまして、なんと言うべきでしょうか……、『=』……の裏人格のような存在ですし……、確か自身を『リバー』と名のっていたのでリバー君と呼ばせてもらいます、よろしいですね」
リバーと呼ばれた青年は驚愕に満ちた表情をし、そして腰に携えた刀の柄を掴みさらに驚愕した。
何せ、先ほどまで一緒にいた『彼』が使っていた刀、篭手を付けていたからだ。
服装はあの戦いで傷付いた筈の場所に後は無く、戦いが始まる前の状態になっている事も少なからず彼に衝撃を与えた。
自身の持つ刀、篭手は『彼』が持っているべき物でありこの場には無いはず、それも本物と言うしか無いほどの感触や力を感じさせる、それらの事を顔に出さないよう、まして声に出る事を無理矢理押え付ける。
そして持っていた刀を引き抜き構える。
刀を放つ力強さに安心感を抱きつつも、だがそれに享受する事の無い様に心構え、幾ら持っていた物と同質の感触だが、それを完全には信じ切れない。
何せこの武器もこの篭手も然り、『』と別れたというのに、自分自身が持っている事自身がオカシイ、いや、それを言うなら自分の身体が『』の身体と同じだという事自身も……。
若者は刀を構える青年……、リバーに動じる事無く飄々としてリバー自身が隠し通している真相に答える。
「ああ、さすがに驚いたよね、肉体や服装、そして『君』の持つ刀や篭手と同じ物が在る筈が無い、在っても本物ではない、精々形だけの模造品と思うかもね。
けれど、今そこに在る者は一応『本物』と言うべき物だよ、そう、『君』と同じ物、『その本質そのモノを転写しただけ』の代物だけどね。
まあ、元は世界の意思を創ろうとした実験の結果がリバー君だから少しは本質、いや、今のリバー君なら本能的かな?
それで一応今の意味、分かっているとは思うけど。」
若者はジーッとリバーを見ている、その状況に耐え切れなくなったためか、リバーは今まで閉ざしていた口を開く。
「さっぱりだ!!
その前にてめぇは誰だ?んっで、此処は何処だ?
さっさと答えろよ!!」
少し遠くから見れば脅されるようにも見えなくないが、表情が見て取れるほど近くで見れば青年が若者に対して癇癪を起こしている事が分かる。
その若者はと言うと、言った言葉の意味がよく理解できず、のんびりと考え込み、ようやく分かって口に出す。
「?難しすぎたかな?
一応自分なりに簡単にしたつもりだけどな〜。
まあ、探求者でもなく、純粋なる戦う者である、リバー君に今の説明は酷だったかな?
ああ、そういえば自己紹介も済んでいなかったっけ?」
殺気だったリバーに気を懸けず、若者は自分のペースを変えずにのんびりと自己紹介をする。
「多くの者は私を真理、あるいは真理の具現者と呼ぶが、まあ、世界で過ごす時、私はこう名のる、リネン=トゥリュルーマン、リネンと呼んでくれ。
そしてこの場所は如何なる知識の探求者も最後に求める地、『 』とも『アカシックレコード』とも呼ばれる、全ての世界の真理がある場所、いや語弊があるが、リバー君たちの居た世界の真理とはまた異なる、リバー君たちがいた世界は私とは違う具現者が管理する世界故、異なる真理が在るが……な。
それにしても、理解できないリバー君に理解するまで時間を費やすのは愚考であるし……………」
リネンと名のった若者は思い浮かんだとばかりに手を叩く。
「ならばこうしようか」
そういったリネンはごく自然な、そう例えるなら風が草木を鳴らすような、本当にごく自然な動作でリバーのデコにデコピンを放つ。
反応し切れなかったリバーだが、気付くと同時にとっさに刀を突きつけようとしたが……、それよりもデコピンが放たれるのが速く、リバーは身構えたが何も起こる様子が無く拍子抜けする、と同時に激しい頭痛が起こりリバーは頭を抱え込むがホンの数秒経たぬうちに嘘のように痛みが掻き消える。
「てめぇ、一体何しや………、……っ、なるほど、知識を脳に叩き込んだって事か?」
その疑問に答えるように満面の笑みを浮かべる。
「そう、その通り、知識を圧縮して脳に叩き込んだだけだよ、多分、君が質問する様な事なら思い浮かべるだけで答えが返ってくるよ。
まあ、斬りたければ斬ればいいよ、無理だろうけどね。
私が管理するこの『世界』はリバー君以上の実力が無いと一太刀も浴びせられず負けるのは必須。
試してみるか?」
挑発的な態度のリネンに対しリバー先ほどまで感じていた感情の高ぶりが急に冷えていく、質問をしたい事を詰め込んでそれを脳に直接叩き込んだ『魔法』と思しき力、人の脳にこれほどの情報をホンの一瞬で与える事が出来る才能の持ち主を相手に戦えばおのずと敗北は見えてくる。
自身の魔力耐性の低さ、また先のデコピンも少々油断していたとはいえ、あっさりと放たれたごく自然な動作は、一応は警戒していたと言うのに、それでも普通だと思ってしまうほど。
そして先ほど、デコピンの後に発動した『魔法』、それがどれくらい凄いかは、魔法に関してあまりよく解らないリバーでもわかるほど圧倒的な実力を示している。
それは戦うとなれば確実に負ける事も如実に表している。
そんな事を知ってか、知らずか、どうか分からないがリネンはリバーに気をかけずに聞いてくる。
「さてと、ところでリバー君はどうしたい?
望むならこの『世界』に住むかい?
望むならどんな『世界』にでも送ってあげよう、暮らす為の金銭も用意するよ。
まあ代価として少々リバー君の力を貸して貰うけどね?
それとも元居た所に返してもいいよ、『=』君の中にね、まあ、一応いろいろな取引はあるだろうけど?」
リネンは笑顔を浮かべつつリバーを観察する。
そんな事目にはかけずリバーは、
「いや、元居た『世界』に戻してくれ」
そう、リバーは迷い無くそう言い切る。
「元居た『世界』、つまりリバー君。
後はリバー君の具現者に任せると?
再び『君』と逢えるかどうか分からないよ?
それでも…………、そう何も言わないよ、じゃあそちら側に送るよ。
リバー君、君の行く末に幸多からん事を」
リネンはリバーの表情に迷いが一切無い事を見て取ると早急に送る為の扉を創り出し、リバーをそこに送り出す。
「リバー君、君の進む道に幸在らん事を」
リネンは別れのあいさつをいう。
「たく、まあ、今まで遭った男の中では異様に押しの強い奴だったが。
それなりに面白い奴だ、お前は。
もう会うことはないがじゃあな、リネン」
リバーはそういうと扉の向こうに去っていった。
「面白い奴ね、久しぶりに世界でも巡るとしようか」
これは、『異世界』の住人と『世界の真理』の物語の一つ。
さて、リバーはどうなるやら。
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